第3話_ガーゴイルとコンビーフ(壱)

ゴブリンに連れられて町を歩く。

街並みはヨーロッパ。これが異世界。

しばらくは、ここで生きていかなくちゃならないのだろう。

元に戻れる方法なんてわからない。

たとえ戻ったとしても、店が終わったからやることもない。

天職だったんだろうな。いま振り返れば。

どんな仕事も楽しかった。

トイレ掃除や皿洗い。窓拭きまでも。

スタッフたちも楽しそうに仕事をしていたな。


考えにふけっているとゴブリンが立ち止まる。


「着いたぜ。ここがギルドさ。」


ウッドハウスのような趣。アンティーク調の扉。

両脇に銅像が構えられ、神社の狛犬のよう。

片方は口を大きく開き、吠えかかる姿。

もう片方は口を強く閉ざし、相手をにらむ姿。

重々しい雰囲気が漂う。


息をのみ、店長はギルドに入ろうとする。


「おまえさん。危ないって。」


銅像が動き出し、二匹で道を阻んでいる。

迫力に地面がぐらつき、大声がこだまする。


「おまえは。だれだ。」

「だれだ。おまえは。」


「やっぱりだ。面倒になりそうだからはなれるぜ。」


ゴブリンは理由を知っているのか、そそくさと建物の陰に隠れる。


「どうすりゃいいんだよ。」


「オレも何が起きるかわからねぇよ。」


顔だけをだして声を述べている。

逃げ出そうとするが、目の前に銅像が立ちはだかる。

銅像に道を挟まれ身動きがとれない。

下手に動くことはできない。口を開くことも。


「どこから来た。おぬしは。」

「おぬしは。どこから来た。」


ジッとみることしかできなかった。

銅像は大鷲の姿をしていた。こちらを睨みつけている。

まるで軽蔑しているような眼差しだ。

言葉を選び慎重に話す。


「私は違う世界から来た。信じてくれ。」


恐怖心がいっぱいで余裕はない。

体がこわばっていることがわかる。

食べられるんじゃないだろうか。


「信じられん。作り話だろう。」

「作り話だろう。信じられん。」


「だれだ。きみ達は。」


「門番だ。このギルドの。」

「このギルドの。門番だ。」


ギルドの監視カメラ代わりなのだろうか。

だとしたらカメラより心強い。


「通してほしいんだ。用事があるんだよ。」


「示せ。証拠を。」

「証拠を。示せ。」


論より証拠。確かにそうだ。

一旦店に戻ろう。これでは何も進まない。

店に一旦戻り中に入る。

あの門番を納得させるにはどうしたらいい。

調理器具や材料は片づけてしまって店内にはない。


閉店で異世界に飛ばされるなんて、取材されそうなネタだ。

そういや何回も取材されたな。ブログにも載った。

多くの人が足を運んでくれて、本当に嬉しかった。


もしかしたら、異世界で何かできるのかもしれない。

希望は捨てちゃいけない。何かないか。

ゴブリンの時もなんとかしたじゃないか。

そうだ。ご飯があったところを探す。

やっぱりあった。缶詰だ。

私は袋につめて、再びギルドに赴く。


ギルドにつきガーゴイルに缶詰を見せた。

辺りに缶詰を置いていく。


「これじゃダメか。」


「円柱の銀のなぞ。証拠にはならん。」

「証拠にはならん。円柱の銀のなぞ.。」


円柱の銀という響きが奇妙におもえた。

そして納得する。缶詰という概念がないんだ。

どうすりゃいい。


すると建物のスキマから、火の玉が飛んできた。

危ない。とっさに避けた。

だが缶詰が火だるまになる。

せっかくの缶詰が。誰の仕業だ。

泣きそうな視線を火の玉が飛んできた先に送る。

ゴブリンだった。あいつ何考えてんだ。

おにぎりを与えたのに、恩を仇で返しやがる。


燃え盛る缶詰が急に音を立てて破裂した。

破裂した中身がそこら中に飛び散った。

香ばしい匂いが辺り一面にあふれた。

中身に火が通ったんだろう。

あの缶詰の中身は確か・・・。


「!?」

「?!」


ガーゴイル達の目が点になる。

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