第2話_ゴブリンとおにぎり

ゴブリンだ。なんで諫早にゴブリンがいるんだ。

ハロウィンなんてまだまだ先だろ。気の早い子どもだな。


「こんにちは。どうしたんだい。」


「腹が減っちまって仕事にならねぇんだ。食うものねぇか。」


最近の子どもはご飯を食べられないことをよく聞く。

見えない貧困問題だ。

着ぐるみまで着て物乞いをしなきゃならないのか。


「おかあさんとおとうさんはどこにいるんだい。」


「生みの親のことか。死んじまったよ。」


驚いた。役所は何をしているんだ。


「深いことは聞かない。ちょっと待ってな。」


災害用の備蓄があったはずだ。


店長はキッチンに急ぎ、備蓄を取り出す。

備蓄用食品は多種多用なものが用意されていた。

備蓄用ご飯を取り出し、キッチンに向かう。

電子レンジを探したがなかった。閉店するから業者に売ってたんだ。

レンジがない。どうすりゃいいんだ。とりあえず持っていくか。


「ごめんな。こんなもんしかなくて。」


「袋に入っているみたいだな。食えるのか。」


「レンジがないんだ。このままじゃ食べれない。」


申し訳なく説明する。


「れんじって何だ。」


「温める便利な道具だ。」


「温めると食えんのか。」


変な切り返しだな。


「道具がないんだよ。店の道具は片づけてしまったんだ。」


「とりあえず、くれないか。」


「このまま食べると、お腹を壊してしまうよ。」


何か食べれる方法があるのだろうか。


「温めりゃいいんだろ。くれよ。」


ゴブリンは右手をかかげ、拳を広げた。

すると掌に炎が現れた。あまりのことに目が点になる。

ゴブリンは左手にご飯をもち、右手に炎をかかげ、近づけた。


だんだんと炊き立てのご飯の匂いが、辺りに漂う。

うそだろ。仮装じゃなくて、本物なのか。

だったらここはどこだ。本当に異世界か。


「よし。温まった。これで食えるな。」


ゴブリンは袋を破き、素手で食べようとする。

店長は慌てて止めに入る。

キッチンに戻り手を洗いゴブリンのもとに戻ってきた。


「それじゃ食べにくいだろ。貸してみな。」


「わかった。」


ご飯を預かると店長はご飯を握り、おにぎりを作った。


「おお。玉のようになってる。こりゃ持ちやすいな。何ていうんだ」


「おにぎりだよ。」


「オニギリか。これなら箸が要らないな。炭鉱でも片手で食える。」


炭鉱。石炭を掘る山だが、子どもが働いているとは考えにくい。

だったら納得がいく。確実に異世界だ。


私が接しているのはゴブリン。そして炎を扱える。

だったらギルドとやらにいけば、情報が得られるかもしれない。


「なぁ。ギルドがどこにあるか知らないか。」


「どっから来たんだ。ギルドを知らないなら、どこで仕事を請け負うんだよ。」


「ちょっと訳アリでな。」


「案内してやるよ。お腹も膨れたしな。今度仲間の分も作ってくれよ。」


「優しいな。」


「おまえさんの方が優しいと思うぜ。おれ達は差別されてばかりなんだ。

社会がこうなっているからな。」


「差別があるのか。」


「当たり前だろ。階級社会だぞ。おまえさんは人型をしているからまだマシだ。」


どこにいっても同じような問題はあるんだな。

ただ意識する機会が少ないだけで。諫早にもあった。見えない貧困問題。

時代は変わるのにやり方は柔軟にならない。


「おまえさん、何暗い顔してんだ。笑わないと体に毒だぜ。」


病は気からといいたいのだろうか。

日本ではないこの世界で何ができるのだろう。

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