異世界リニューアル松新

かすてらうまみぃ

第1話_閉店転移

今日で終わりなんだな。男は1人で店内にいた。

賑やかだった日々が頭によぎる。

振り返れば、長く短かった。

店を閉じることが悔しくてたまらない。

店を残したい。なんとかしてくれ。神様、仏様。

ずっとこの店でお客さんの笑顔を見たい。


ガタッ。

がらんどうな店内に音が響く。


なんだ。音は入口付近から聞こえた。

おかしいな。営業中の看板は閉まったはずだ。

店長は音がした方向に向かう。ガラス越しに外を見る。

誰もいないな。鍵は閉まっているし帰ったんだろう。


視線を逸らすと入口近くの本棚からアルバムが落ちている。

お客さんのアンケートや

店が紹介された新聞記事を、スクラップしたものだった。

懐かしいな。そういや店の管理で手一杯だった。

じっくりとは見ていない。読んでから帰ろうか。

とりあえず最新の所から見よう。


ページを開く。

「かみさまおねがいします。びょうきをたおしてください。

おそらからおかあさんがかえってきたらといっしょにいきたいです。」

空からという表現がすぐにはわかった。

病気がなんなのかも。ポロポロと目から涙がこぼれ落ちる。


神様なんていないんだよな。結局。

祈っていたことが恥ずかしい。

祈っても何も解決しないんだ。幸せの引き寄せなんてあるわけない。

この状況を解決してくれと願えば叶うのか。泥臭く地道な作業をしての結果だ。

現実は冷たい。地道な努力には誰も気づいてくれない。

楽して実力が手に入るなら、この世は天国だ。


まだ涙は止まらない。鉛筆の字が涙でにじんでいく。

すると「おかあさん」という文字がキラキラと光りだしす。

光はアルバム全体を包み、店全体に広がった。

建物すべてが輝きだし、閃光を放つ。瞬く光に目をつぶる。


目を開けアルバムから視線をそらした。

入口のドアから外をみる。いつもと全く違う風景だ。

道路もなければ周辺の商業施設もない。


「こいは、どがんしたとや」


あまりの展開に方言がでる。

もちろんお客さんの目の前では使ってはいない。

レストランは特別な空間で非日常を提供していたからだ。


慌てて外に出ると面食らった。

洋風の建物。歩いている人達は諫早の人達ではない。


夢でも見ているのだろう。思い、振り返るとレストランはいつもと同じ。

ただ、これ以外が全く違う。なにもかも違う。

まるでファンタジー小説のようだ。

若者達に流行っているからよく知っている。

「ライトノベル」というらしい。

これが異世界なのか。

異世界にレストランが来てしまったのか。

理由はわからない。だからファンタジーなのだ。

実際に起こると頭が真っ白になる。


呆けていると1人の住人が話しかけてきた。


「こちらのお店は営業中ですか。」


すぐさま答える。


「いえ、本日で閉店です。」


「美味しそうな雰囲気なのに残念ですね。」


「ははは。お店の外観も古臭いですし、色々あってですね。」


「古臭いだけでですか。ギルドに相談すればいいですよ。」


「ギルドって何ですか。」


「ギルドはギルドです。私は予定があるんで失礼しますね。」


話しかけた住人は地から浮き空に浮かび飛んで行った。


なんてこった。頭がおかしくなっちまったのか。

アニメの世界か。考えてもわからない。とりあえず店に戻ろう。


一旦頭を整理しないとな。

仕事でも慌てても冷静さを保つのがプロだ。


後ろを振り向き、戻ろうとする。

1人の怪物が店を覗いていた。


ちょっとまて。まだまだ慌てる時間じゃない。

物語は始まったばかりだ。

なんだ。あの茶色の宇宙人みたいな生き物は。

子どもの頃の絵本でしかみたことない。

確か名前はゴブリンだ。


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