第184話 「もしも二人とも」
(蒼汰)
列車の車窓からの景色を見ながら、みぃとひなちゃんの事を考えていた。
みぃからは優柔不断だと言われたが、その通りだと思う。
ひなちゃんは文句ひとつ言わずに、俺がはっきり答えを出すのを待っている。
いつまでも待たせてはいけないと分かってはいるけれど、もう少し時間が欲しかった。
それでも、ひとつだけはっきりとしている気持ちがある。
俺はひなちゃんの手を放すつもりは無い。
無いが、「じゃあ、みぃはどうするの?」となると、同じ重さで大事にしないといけないと思ってしまう。
結局、いつもここで思考停止してしまうのだ。
そんな事を繰り返し考えていたら、隣の席に人が来たから慌てて荷物を除けた。
ところが、横に座る相手を見たら結衣だった。
流石に度肝を抜かれたが、結衣は俺の事情を知っていた。
電車に乗り込む俺を偶然見つけて、面白そうで付いて来たそうだ。
結衣はそのまま帰るのかと思っていたけれど、帰りの電車が無くて、結局一緒の温泉宿に泊まる事になってしまった。
相談の続きを聞いてくれるのと、これまでのお礼とお詫びを兼ねてと言われると断れなかったのだ。
でも、久しぶりに気の置けない相手と話ができて嬉しかった。
何だかんだ言って、結衣といると安心できる。
折角だから楽しもうという事で、浴衣姿で温泉街を散策して、面白そうなお店なんかを見て回った。
宿の食事は、結衣がグレードアップしてくれたから、豪華で凄く美味しかった。
地酒も美味しくて、飲み比べしているうちに結構飲んでしまった。
その後、俺の相談コーナーになったが、結衣は「俺が悪い」の一点張りで、結論は出ないまま、何となくお酒を飲んで過ごしていた。
大分酔いが回って来た頃、結衣が内風呂に入ると言い出し、覗くなとか言って浴室に消えて行った。
正直なところ覗きたかったが、もちろん覗いたりしていない。
でも、手を出さない自信があるなら、月が綺麗だからお酒飲みながら一緒に風呂に入れと言われて、挑戦を受ける事にした。
本当に綺麗な月と美味しいお酒。
それに、月明かりの下の結衣はかなり色っぽかった。
タオルで隠してはいたが、お酒を飲む時に時々ズレてお胸が見えた。
思わず見てしまう度に、結衣に「見んな!」と怒られたけれど、見ない訳がないじゃん……。
俺は少しのぼせて来たので、先に上がった。
結衣はその後も月とお酒と温泉を楽しんで、しばらく上がって来なかった。
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「蒼汰も飲め!」
結衣は結構酔ったみたいで、相談の続きだとか言いながら酒を勧めて来た。
「私ね、結論を出すいい方法を思いついたの!」
「ほー。どんな方法?」
「美麗先輩とひなちゃんの好きな所を、それぞれ上げて行って、その数が多い方が勝ちで良くない?」
「ええー、そんな無茶な。沢山有り過ぎて大変だぞ」
「うわぁ、ノロケてるし。やだやだ。まあ、良いから始めて。先ずは美麗先輩から!」
「お、おう。えーと……」
俺は酔っているせいも有ったのか、あまり沢山言えなかった。
「はぁ? 蒼汰それだけ? それで本当に好きなの? ダメじゃん」
「うーん」
「はいはい、もっと沢山あるでしょ。新しいのが出て来なかったら、一分毎にひと口飲め!」
「何だそりゃ。分かったよ、バンバン言ってやる。俺がひとつ言ったら、お前がひと口飲めよ!」
「良いわよ。はいどうぞ」
それから三十分位その話をしていたが、お互い結構飲んでしまった。
「蒼汰、全然少ないねー。これなら私の方が勝てそうよ」
「はぁ? 何だそりゃ」
「じゃあさあ、蒼汰が私の事を好きだと仮定して、私の好きな所を上げてみてよ!」
「何だそれ」
「良いじゃん良いじゃん。私の好きな所を上げて行ったら、ひとつ毎にひと口飲むから!」
「よーし、勝負だ! えーと、可愛いところ!」
「いやん♪ 良いわね良いわねー、続けて続けて!」
そして、お互いにお猪口十杯ずつ位飲んだところで、次が出なくなってしまった。
「ほら、蒼汰ー。まだまだあるでしょー」
俺は相当酔いが回っていた。
色々考えて答えを
「お胸が、めっちゃ綺麗なところー!」
「いやん♪ 本当にそう思ってるー?」
「うん、めっちゃ綺麗だったー」
「えー? わたし見せた事ないよねー」
「いや、見た事あるー」
「えー、嘘だぁ」
「修学旅行の露天風呂とー、さっきもお風呂でー、しっかりと見たよー」
「やっぱり見てたんだー。蒼汰最低ー」
「だって、見たいもん」
「蒼汰のスケベ!」
「だってー、結衣のお胸見たいもん!」
「本当にー? そんなに見たいの?」
「う、うん! 見たい見たい! 今すぐ見たーい!」
「じゃあ、私の好きな所を、もうひとつ上げたら見せてあげるー」
「マジかー! えーとえーと、お尻が可愛い事ー!」
「いやん♪ 良いわねー! ハイ!」
結衣は浴衣の胸元を一瞬だけはだけさせてお胸を見せてくれた。
「えー、一瞬じゃん! 見えなかったー」
「残念ー! ハイ、見たいなら次の好きな所ー!」
正直この辺から意識が定かでは無くなっていた。
断片的に覚えているのは、俺が結衣のはだけた胸に顔を埋めたこと、結衣にキスされたこと、そして結衣が俺を見つめながら言った言葉だ。
「蒼汰ぁー。私ねー、蒼汰の事、ずっと好きだったんだー。頑張ってアタックして来たけれどー、全然気付いてくれなかったよねー。蒼汰はー、私の事を本当はどう思っていたのー」
「うーんとねー。本当はー完全に女性として意識してたなぁ。正直、幼馴染じゃ無かったら、我慢できなかったかも知れなーい」
「えー、それどういう事ー? ちゃんと言ってよー」
「結衣のお胸とかパンツとかー、いつもコッソリ見て凄く嬉しかったけどー、他の男には見せたくなかったなー」
「そうなんだー、ありがとー」
「多分ー、俺はー、結衣の事ー、ずっと好きだったと思うー!」
「やったー! 蒼汰からやっと好きって言われたー! 嬉しいー! ねぇ蒼汰ぁ、約束通り、好きにして良いよー」
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俺は今、涙を流しながら結衣に謝っている。
完全に酔っていたとはいえ、劣情に流されてしまった。
「蒼汰、最低だよね」
「ごめん」
「二人にお預けくらっていたからって、私に手を出すって酷いよね」
「ごめんなさい」
「これで、三人のうち誰を選ぶのかになったのかしらね?」
「いやその……」
「最低。私の事は好きでも何でもないくせに……」
「……いや、結衣。それは違う」
「え? 何が違うの! 適当なこと言わないで」
「昨日言った事で、嘘は一言も言ってないよ……」
「……変な期待を持たせないで」
「ごめんなさい」
そのまま暫く謝り続けた。
そしたら急に結衣に抱きしめられた。
「もう良いよ、蒼汰。許さないけど。正直、途中から私もそうして欲しいって、きっと思っていたから」
「結衣……」
「昨日の事は夢よ夢!」
「……ごめん」
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駅のホームで結衣の乗る電車が来るのを待っていた。
「蒼汰はこのまま旅を続けるの?」
「うん。どうするのかしっかりと考えるよ」
「そっか。頑張ってね」
「結衣のお蔭で、少し客観的に考えられそうだよ」
「蒼汰。変なこと思い出しているんじゃないでしょうね?」
「え、いや……」
「馬鹿! 死ね! 思い出すな変態!」
「……」
「まあ、良いや。蒼汰、温泉楽しかったね!」
「うん。楽しかった」
「素敵な思い出をありがとう」
「え、うん。結衣がそう言ってくれるなら、俺もそう思うよ」
「素敵な夢だったね。今日からまた幼馴染だね」
「ああ、これからも宜しく」
その後、直ぐに電車が到着した。
結衣が乗り込んでドアの前に立つと、発車を知らせるアナウンスが流れていた。
「ねえ、蒼汰。もしも、二人とも三十歳まで独身だったら、結婚しようね!」
結衣は笑顔で手を振ってくれた。
「変なフラグ立てるなよ!」
俺も笑顔で手を振り返した。
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安宿の布団で目が覚めた。結衣の夢を見ていた気がする。
結衣との事は、本当に夢だったのかも知れない……。
旅に出てから二週間が経った。
今日は最後の目的地に到着する予定だ。
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