第182話 「友」
(航)
小学生の時、俺には友達がいなかった。
適当に集団について回り、何となく輪に入って誤魔化していたけれど、個人的に一緒に遊んでくれる奴はひとりもいなかった。
その中に、いつも喧嘩をしているくせに、凄く仲が良い男の子と女の子が居た。
喧嘩をしても直ぐに仲直りして、いつも笑って話していた。
俺はそんな二人と仲良くなりたくて、いつも二人に付いて回った。
女の子の方が、他の男の子に嫌な事をされたら、男の子が怒って喧嘩をしに行く。
もちろん俺も付いていった。
男の子には母親が居ないらしくて、誰かがそれを馬鹿にすると、女の子が怒って喧嘩をしに行く。
もちろん俺も付いていった。
そして、いつの間にか三人で一緒に遊べる様になっていた。
俺に友達ができたのだ。
男の子の名前は
女の子の名前は
何故かこの二人とは馬が合い、気が付けば高校まで一緒だった。
蒼汰とは何でも話せた。それこそ他の人には話せない様な事まで話せた。
高校になってもうひとり仲良くなった奴がいる。
龍之介だ。
本人は硬派を装っていたが、中身は全く違っていて、とても面白い奴だった。
俺達三人はいつもつるんで遊んでいた。
この二人のお蔭で、俺の高校生活は本当に楽しかった。
そして、この二人と共に過ごせた事で、俺の横に素敵な女性が居る。
「ねえ、
「うん?」
「蒼汰さんの元の彼女さん。えーと、美麗さんだっけ?」
「そうそう。元の彼女って言い方が正しいのか分からないけれどね」
「まあね。そう言えば、そろそろ帰って来る頃じゃない?」
「そっか。もうそんな時期だね」
「どうするのかなぁ。二人とも知っているだけに、ちょっと複雑な気持ちだね」
「だね。本当に二人とも蒼汰の事が好きだったみたいだし、蒼汰にとっても両方大事な女性だろうからね」
「航くん」
「うん?」
「私はそういうのは嫌よ」
「えっ? ああ、大丈夫だよ。俺は
「ありがとう」
「でも、俺はいつだって蒼汰の味方だ」
「う、うん」
「来年になって、もしあいつがまた違う女性を連れて来ても、俺はあいつを歓迎するよ」
「なにそれ。お爺ちゃん達の反応を想像したら、ちょっと面白いけれど、酷い話」
「例えばの話だよ。あいつは俺の大事な友達だからさ……」
----
(龍之介)
俺の家は、俺の中学の卒業に合わせて遠方に引っ越すことになった。
だから、引っ越し先の高校を受験した。
高校に入学すると、他の連中は同じ中学出身の奴らと一緒に交友関係を広げていたが、俺は全く知らない土地で、誰一人知り合いが居ない状態。
だから、学校ではしばらく誰とも話さないで過ごしていた。
何となく気恥ずかしくて、自分から声を掛ける事もしなかったし、少し強面で居たからか、誰からも話しかけられなかった。
そんな感じで俺の高校生活は始まった。
しばらして、体育の授業の時に三人一組の班に分けらる事が有った。
俺と組んだ二人は仲が良いみたいで、何やら楽しそうに話をしている。
三人一組で対戦する授業で、他の組を待っている間は三人で固まって座っていた。
そんな時に、離れた場所で女子がボールを使った授業をしていて、俺たちの近くに女の子がひとりボールを拾いにやって来た。
俺達にお尻を向けた状態で、ボールを前かがみで拾った時に、お尻の形が凄く綺麗だったから、思わず「良い形のお尻だなぁ……」って呟いてしまった。
その呟きが二人に聞こえたみたいで、驚いた様に俺を振り返り、そのまま笑い転げてしまった。
「た、確かに良かった!」
「うん、俺も全く同じ事を思ったよ! 君は良い趣味してるね!」
「……あ、いや。聞こえた?」
「うん、バッチリ」
「まさか無口の君がそんな事を呟くとは……最高だよ」
「……」
「俺は航。こいつは蒼汰。宜しくな!」
「あ、ああ。俺は龍之介」
それからいつも三人で行動する様になった。
このまま暗い高校生活が続くと思っていたけれど、二人のお蔭で楽しくなった。
そして、高校二年の体育祭の時に蒼汰が凄い事を教えてくれた。
俺の事が気になっている女の子が居るという話だった。
名前を聞いたら、鍛錬遠足で一緒の班だった女の子で、実は気になっていた子だったのだ。
文化祭の時に、その子が一緒に見て回らないか誘って来てくれた。
もちろん、喜んで一緒に見て回った。
彼女の名前は
俺はその日に交際を申し込んで、OKを貰った。
彼女とは凄く相性が良かったのか、お互いに大好きになってしまった。
今でも俺の大事な彼女の愛理ちゃんだ。
ちなみに、あの時ボールを拾いに来たのは愛理ちゃんだ。
言っておくが、お尻に
「私ね、龍之介君との事、少し悩んでいたんだ」
「うん。去年の冬頃に何となく感じていた」
「そっか。何だか遠距離恋愛が辛くて。龍之介くんの傍に誰か現れたら直ぐに負けそうな気がしちゃって」
「そんな事は絶対に無いけど、愛理に辛い思いをさせてごめんね」
「ううん。私が少し弱気になっていただけ。美咲ちゃん……ひなちゃんの事を聞いて、本当に反省した」
「ひなちゃん?」
「だって二年も会わずに居て、それでも好きだったなんて……。毎月会っているのに、私はなんて甘ちゃんだろうなって思ったよ」
「あいつらは凄いな。命がけだもんな」
「うん。感動した」
「でも、美麗先輩との事はどうするんだろうな」
「そっか、もうそろそろだよね」
「俺はひなちゃんの方を良く知っているから、ひなちゃんを応援してしまうけれど、蒼汰が決める事だから」
「うーん。複雑な気持ちだね……」
----
(結衣)
ひなちゃんから連絡があった。
蒼汰の馬鹿は、ひなちゃんにするのか美麗先輩にするのか、まだ決めて無いらしい。
私ならそんないい加減な奴はお払い箱にしてやるのに!
まあ、私も二人が蒼汰の事を好きな気持ちが理解できてしまうから、あれだけれどね……。
私はいつ蒼汰の事が好きになったのかなぁ。
小学校の時だった気もするし、中学の時かも知れないし、高校に入ってからかも知れない。
蒼汰が家庭の事で人間不信に陥って酷い状態だった時に、今まで一緒にいた友達が辛そうで、堪らなくなって抱きしめてしまった。
蒼汰は私の胸に抱きしめられて、心細げに「ごめんね。結衣ありがとう」て言ったの。
その時に胸がキュンってなったんだ。
私は蒼汰の事が好きなんだって気が付いた。
でも、蒼汰は私の事を友達としか思って無いみたいだったから、女に見られるために一生懸命だった。
下着を見せてみたり、胸を押し当ててみたりした。
修学旅行の露天風呂の事はハプニングだったけれど、反応が知りたくてチラチラ見せてしまった。
目隠しの失敗は恥ずかしかったけれど、後から思い出したら、腰にタオルを巻いていたけれど、蒼汰は私の裸に凄い反応を示していた。
ここまで見せたのだから、きっと私を女として見てくれて、恋人に成れるかも知れないと期待した。でも、蒼汰は美咲ちゃんが好きだった。
それに、半信半疑だったけれど、二人が付き合っている気がしてた。
それでも、私の方を振り向かせたくて、何度かアタックして見たけれどダメだった。
しかも、今は二人の女性を好きになって右往左往しているらしい。
そんな事なら、私の事も好きになれば良いのに! 蒼汰の馬鹿!
イライラしながら電車を待っていると、その馬鹿が大きめのリュックを背負って電車を待っていた……。
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