第181話 「私の大切な人」

(蒼汰)

 みぃが帰国して一ヶ月が経った。

 そして俺は爆発寸前だった……。


 ひなちゃんのお泊りの日に尻尾を振って寄って行くと「美麗先輩との結論が出るまでは……」という事で、キスまででお断り状態。

 一方のみぃは、下着姿でベッドに入って来るのに「私に決めたのなら何時でもどうぞ」と言って、自分からはキス以外何もして来ない。

 俺は悶々とした日々を過ごしていた。


 けれど、結局自分が悪いのだ。

 ひなちゃんと居るとひなちゃんが大好きで幸せな気持ちになり、みぃと居るとみぃと穏やかに過ごせることに幸せを感じてしまう。

 日替わりで二人に会うので、気持が揺れ動いてどうしようも無かった。


 それでも、日曜日だけは三人で楽しく過ごせた。

 二人はギスギスするどころか、親友の様に仲が良い。

 あまりにも二人がイチャイチャしていたから、妄想と期待を胸に「三人でとか……」と、ドキドキしながら聞いてみた。


「だったら蒼ちゃん抜きでする。ねぇひなちゃん」


「はい、みぃさん。私もそれが良いと思います」


 その後、二人で引っ付いて離れなくなったから、別の意味でドキドキしてしまった。

 えっ……二人ともそっちもOKって事なの? え、もしかして俺って要らない感じ……?

 俺の悩みは、深まるばかりだった。


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 それからしばらくして、金曜日にひなちゃんが急にOKしてくれた。

 嬉しくて理由も聞かずに胸に飛び込んでしまった。

 そして、翌日の土曜日に、みぃがいきなり「今日は条件なしで許してあげる」って誘ってくれた。

 もちろん、喜んで胸に飛び込んでしまった。


 その翌日の日曜日に、二人から結論が出たか聞かれた。

 どうやら俺は二人の掌で踊らされている様だ。

 まだ結論が出てない事を伝えると、またNG生活に戻らされた……。


 俺は二人からのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

 二人は優しいから、会うと大好きな気持ちが勝ってしまい、どちらと一緒にいても楽しく過ごしてしまう。

 このままでは、絶対に結論なんか出せるはずも無かった。

 せめて月に二回ずつでもOK日を頂けるなら、いっそこのままで……。

 そんな甘えた考えが浮かんでくる。

 このままの状態で、二人が本当に楽しくて幸せなはずは無いのに……。


 俺は結論を出す為に二人と一旦離れる事にした。

 『少し時間を下さい。連絡はしないで欲しい』

 二人にそう書き置きを残して、俺は独りで旅に出た。


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(美麗)

 一年振りに大好きな人に会えるかも知れない。

 帰国する便名だけメールで知らせていたけれど、迎えに来て貰えるのかさえ分からない。

 私が意地になって薦めた提案……。

 彼はきっと『天野美咲』に辿り着いていると思う。

 二人が一緒に居る事を考えたら胸が締め付けられる。


 私の大切な人。

 一度目は天野美咲が手を放して、二度目は私が手を放した。

 三度目は蒼汰くん自身が、どちらかの手を放すのだろうか……。

 私の手を放す蒼汰君を想像してしまい、涙が止まらなくなる。

 嫌だ、絶対に嫌だ。何とかして傍にいたい。

 たとえ二人にすがりつく様な事になってでも傍に居たい。

 今日まで考えて来た計画を、何度も何度も確認する。

 二人には申し訳無いけれど、どんな事をしてでもそうさせて貰う。


 


 荷物を受取り到着ゲートを出ると、私が大好きな人が居た。

 予想通り横にひなちゃんが居る。

 でも、二人で迎えに来ているという事は、まだ大丈夫だという事だ……。


 私はひなちゃんに笑顔で会釈をして、大好きな蒼ちゃんにキスをした。

 嫌がられるかも知れない、振り払われるかも知れないと、本当は内心怖かったけれど、彼は受け入れてくれた。

 思う存分キスをした後、私は直ぐにひなさんを抱きしめた。

 卑怯かも知れないけれど、彼女の協力が必要だから……。


 事前に考えていた通りに事が運んだ。

 平等な提案を装いながら、ひなちゃんが獲得していた陣地を、大幅に割譲させることに成功した。

 そして、蒼ちゃんが居ない時に二人で話し合い、色々なルールを決めた。


「いつでも従順に受け入れていたら、安心して浮気されるわよ」


 そう言うと、思う所があるらしくて、当面NGも素直に受け入れてくれた。


 『思う所』については、後で詳しく聞こうと思う……蒼ちゃん何をしでかしたのかしら……。


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 そして、二人での話し合いを続けて行くうちに、私とひなちゃんは本当に仲良くなってしまった。

 ひなちゃんにお願いして、来栖先生と会わせて頂き、活動を共にされて来た奥様ともお会いすることができた。

 ご夫妻は私の事を凄く気に入って下さり、私のこれからについても関わって下さる事になった。


 その後、ひなちゃんとは将来の事をじっくりと話した。

 私の話に感銘を受けてくれたのか、何度も頷いて「美麗さんの言う通りです」と、これからの事を全て了承してくれた。

 別に卑怯な手を使って彼女を騙した訳じゃない。

 現実的な話をして、ひなちゃんが納得してくれたのだ。


 蒼ちゃんには随分我慢をさせていたので、浮気防止を兼ねて、お互い一日だけOKにする様に提案した。

 申し訳ないとは思ったけれど、先にひなちゃんにOKさせて、嫌でも私の番を認めざるを得なくしたのだ。

 蒼ちゃんに断られるのが怖かったけれど、私の胸に飛び込んで来て、一年前と変わらず愛してくれた。

 これで確信ができた。

 私はもう大丈夫だ、前に進もうと思う。


 そして、私が未来に向けて歩みだそうと決めた時に、蒼汰君が逃げ出した。

 本当に世話が焼ける子ね……。

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