第180話 「公平な提案」
(ひな)
私は蒼汰君と二人で、国際線の到着ゲート前に立っている。
入国審査を済ませた人達が続々と出て来ていた。
人の流れが少し途絶えた頃、私達が待っている人が出てきた。
凛としたと立ち姿は相変わらず美しい。
彼女は私達に気が付くと微笑みながら歩いて来た。
三年半前に卒業式で会った時より、格段に美しい女性になっていた。
あまりの綺麗さに、不安で胸が締め付けられる……。
美麗先輩は私を見て微笑んだ。でも、直ぐに蒼汰君の頬を両手で包み込むと、当たり前のようにキスをした。
蒼汰君は少し驚いた様な感じだったけれど、自然な感じで腰に手を回して、先輩のキスを受け入れていた。
私は俯いて、ただ耐えるしか無かった……。
どの位の時間キスをしていたのか分からないけれど、先輩は俯く私の方に近づいて来ると、いきなり私を抱きしめた。
「来栖ひなさん。お帰りなさい」
「……美麗先輩もお帰りなさい」
「ここにあなたが居るという事は、蒼ちゃんが私との約束を守って、頑張ったという事ね」
「は、はあ」
「ねえ……」
小声でそう言うと、私の耳元に顔を寄せて来た。
「……蒼汰が私との事を話したのは、その……そういう事をした後、それとも前?」
「えっ? あ……後です」
「うわっ! 最低ー! 再会の勢いを利用して、そういう事をしておいて、後から話すって酷い奴ね」
「え、ええ……でも、私も……」
「その辺の事は一緒に問い詰めてやりましょうね!」
「は、はい……」
先輩は私から離れて蒼汰君の傍に戻って行った。
「私は実家に荷物を置いて来るから、蒼ちゃんの部屋で待ち合わせという事で良いかしら」
「えっ! 俺の部屋に集まるの?」
「あら、公衆の面前で修羅場を迎えたい?」
「……」
「嘘うそ。まあ、とにかく三人でゆっくり話しましょう」
「う、うん……」
----
三人分の夕食が出来上がった頃に、美麗先輩は部屋に来た。
割とラフな格好で、自分の部屋に帰って来たみたいな感じだった。
「あー、いい香り。もしかして私の分もある?」
「ええ、もちろんです」
「やったー! かのスーパー家政婦来栖さんの手料理が食べられるのね」
「いえ、そんな……」
「嫌味じゃなくて、本当に嬉しいのよ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ準備しましょう」
先輩はそう言うと、夕食を食べる準備をテキパキと始めた。
まあ、一年間住んでいたから当たり前だけれど、物の場所に詳しかった。
私も負けじと準備を頑張る。
二人の迫力に気おされて、蒼汰君は椅子に座ったまま固まっていた。
「美味しかったー! ひなちゃんは本当に料理が上手なのね!」
「ありがとうございます」
「さてと……。お腹もいっぱいになった事だし、私が出国してからの事を聞かせて頂戴……」
----
「……なる程ねぇ。蒼ちゃん格好良いじゃん。ひなちゃんも頑張ったね」
「え、ええ」
「で、蒼ちゃん。私達の事はどうするか決めたの?」
美麗先輩がいきなり核心を突いて来た。
私は蒼汰君の結論が出ていない事を知っている。
私も先輩と話もしないで結論を出して欲しく無いと思っていた。
「いや。みぃはどうなの?」
「え、わたし? 私の気持ちを聞きたいの?」
「う、うん」
「もう、蒼ちゃんはだらしがないなぁ……私は留学前の気持ちと全く変わって無いわよ! 何なら今日からまたここで一緒に暮らしても良いわよ」
先輩の宣言を聞いて胸が苦しくなる。
もしかしたら蒼汰くんの事を諦めてくれるかも知れないと、甘い期待を抱いていたから。
私のそんな想いはピシャリと切り捨てられてしまった。
「とか言い切ってしまうと、ひなちゃんに失礼だからあれだけれど、蒼ちゃんはどうなの?」
「う、うん。正直な気持ちを言うと、どうして良いのか分からない」
「何それ。三人仲良く暮らしていきましょうって事?」
「い、いや。そんな意味じゃないよ……」
「蒼ちゃんは高校の時からそうだもんね。優柔不断で私と美咲ちゃんのどっち付かずでさ」
「……」
「じゃあ、ひなちゃんは?」
「えっ? えーと。私はこの件について強く言える立場じゃないので……」
「何を言っているの! 一番の当事者なんだから、蒼汰に強く言って良いと思うよ」
「え、いや、でも……」
「もう! 二人とも私がこうって言ったら、そうしますって感じだね」
「……」
「分かったわ。少し時間を置きましょう。ひなちゃんは何曜日がお泊りだっけ?」
「え、えーと。月、木、金です」
「分かった。じゃあ私は火、水、土にここに泊まるから。日曜日は三人で過ごしましょう」
「み、みぃ?」
「なに? 優柔不断の蒼ちゃんが結論を出すまで、私とひなちゃんと同条件で過ごすだけよ。一番公平でしょう」
「……」
「美麗先輩! 私も先輩の提案に賛成です」
「でしょう! ひなちゃん仲良くしましょうね」
「はい。宜しくお願いします」
「えぇぇぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます