ひなと美咲の選ぶ道

第154話 「合格祝い」

(蒼汰)

 文化祭の一週間後、俺たち生徒会役員は任期を終えた。

 新しい生徒会長には、昨年会長選に出馬して、良く活動を手伝ってくれていた佐藤君が就任した。

 彼の選挙は俺たちも全力で応援して、圧倒的大差で会長に選ばれたのだ。


 生徒会役員としての最後の打合せが終わり、思い出の詰まった生徒会室を後にする。

 俺は部屋を出る時に伊達君を捕まえた。


「生徒会役員で旅行をするのが夢だったけれど、出来なかったなぁ」


「それなら、いつか四人で旅行に行こうよ!」


 笑顔でそう言われた。

 きっと叶わないとは分かっているけれど、叶えたい夢だと思う。

 こうして、俺と美咲ちゃんの生徒会役員としての一年が終わった。

 最初はあれほど嫌がっていたのに、思い出して見れば四人での素敵な思い出ばかり……。

 薦めてくれた先輩方に改めて感謝しかない。


 ----


 十二月になり、なんと推薦試験を受験した全員の合格が決まった。

 長い受験勉強から解放され大騒ぎしたかったけれど、一般入試の生徒達はまだ試験が終わっていないので、昨年の先輩方と同様に、生徒会室に遊びに行って解放感を満喫する。生徒会室があって助かった。

 新しい生徒会役員の後輩達から、推薦試験の事を聞かれたので詳しく説明してあげた。

 少し気は早いが、修学旅行の裏情報を色々と教えてあげた。

 こうして、先輩から受け継がれた情報が、これからも代々語り継がれていくのだろう。


 航や結衣達と、全員合格のお祝いをしようという事になり、話し合うまでも無く、全会一致で俺の家に集まる事になった。

 家が広くて学校に近いから集まりやすいというのが最大の理由だ。

 次の金曜日が午前中で下校なので、その日に集まる事にした。

 美咲ちゃんも夕方までは参加できるらしい。

 自宅に美咲ちゃんをお招きする日が遂にやって来たのだ!

 もちろん、俺の部屋は立ち入り禁止だけれど、嬉しくてワクワクする。


 来栖さんに金曜日に皆が集まる事を伝えたら、当日の朝は早起きをして、オードブルやパーティー用の食べ物とかを沢山準備してくれた。

 つまみ食いをしたら凄く美味しかった。来栖さんは本当に凄い人だと思う。




 全員が家に集まると、来栖さんの用意してくれた食べ物に加えて、皆が持ち寄ったお菓子や飲物を合わせて、合格祝いのパーティーが始まった。

 受験が終わった他の連中や、伊達君と前園さんも参加していたので結構な人数だ。

 高校一年まで、こんなに友人が増えて、まさか自宅に皆を集めてパーティーが出来るなんて考えてもいなかった。

 ふと考えると、去年の夏に美咲ちゃんと出会ってから、俺の人生は大きく変わった気がする。やはり美咲ちゃんは俺の女神様だ。


 オードブルとかの食べ物が減って来たら、美咲ちゃんが、私が何か作ろうか? とか言いながらキッチンへと入っていった。

 場所が分からないだろうから準備を手伝おうと思ったら、テキパキと調理道具を出して来て、冷蔵庫から食材を取り出し料理を始めた。

 家でも良く料理をすると言っていたから、調理道具の位置とかお手の物なのだろうと思って感心して見ていた。

 その後も、飲物をこぼしたら直ぐに台拭きを持って来てくれたり、床にお菓子が散乱したら、ほうき塵取ちりとりを持って来てくれて、直ぐに片付けてくれた。


 しばらくして、美咲ちゃんが立ち入り禁止の二階に上がろうとしていたので、慌てて追いかけて行ったら「トイレに行こうと思って?」と普通に言うから、止めるのも変なので、そのまま二階のトイレを使って貰った。使ったのが女性なら来栖さんも怒らないだろう。

 それにしても、美咲ちゃんは俺の家の事が良く分かるみたいだ。

 とても初めて来たとは思えない。

 やはり俺と一緒になる運命に違いない……。


 四時半になり、美咲ちゃんと何人かが帰る事になったので、パーティは一応お開きという事になった。

 美咲ちゃんには、このまま数日滞在して欲しい位だけれど、用事があるから仕方が無い。

 名残惜しいけれどお見送りをする。

 美咲ちゃん! また遊びに来てね! これから毎日来ても良いよ!


 しばらくして、来栖さんが家に帰って来た。

 来栖さんは、何か急いでいたのか、息を切らせて汗をかきながらリビングンへと入って来た。

 家には美咲ちゃん以外のいつものメンバーが残っている。

 来栖さんは皆に簡単に挨拶をすると、荷物を置いてキッチンへと入って行った。

 入れ替わるように、結衣がトイレに行くと言って部屋を出て行く。

 来栖さんはいつも通りテキパキと仕事をこなしていた。


 夕食を少し遅めでお願いすると、その間は部屋に居ると言って来栖さんは二階に上がって行く。

 二階のトイレを女の子が使った事を謝ったけれど、全然構わないと言っていた。

 微妙に笑っていた気がするけれど、何でだろう……。


 残っていた連中も帰る時間になり、合格祝いのパーティーは終了した。

 来栖さんに、オードブルとかが凄く好評だったと伝えると、喜んでくれた。

 俺はこの時まで、本当に楽しくて良い一日だったと思って過ごしていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る