第58話 「桐葉美麗」

(蒼汰)

 先輩は何処に行っても、男性だけではなく女性の視線も集めていた。

 俺が連れだと思われると先輩に悪いと思い、少し距離を置いたり逆方向を向いたりして、他人をよそおった。

 でも、そういう時に限って、先輩は俺の腕をつかんで密着して来るのだ。


「なになに蒼汰君。どこかに可愛い娘でも居たのかな? 私と一緒なのに君は失礼だなぁ」


 先輩はきっとドSだ。

 俺をもてあそんで楽しんでいる気がする。


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 どんなプレゼントを選べば良いのか見当も付かないので、相手がどんな感じの人なのかを聞いてみた。


「まあ、それは良いじゃない。蒼汰君だったら、どんな物だと嬉しいと思う?」


 残念ながら具体的なイメージは教えて貰えない。

 イメージが沸かないので、俺が知っている人か聞いてみた。


「まあ、そうだね……」


 こうなると候補は絞られてくるが、早野先輩と望月先輩と夏目先輩とでは、タイプが全く違うので、何が良いかと言われても全くイメージが湧かなかった。


 まあ【恋する魔法少女マロンちゃん】系の本とかが良いのかも知れないが、その事は絶対に秘密なので却下だ。


 結局、普段身に着ける物が良いという事になり、マフラーをプレゼントする事に決まった。

 マフラーならそんなに相手のタイプに合わせる必要も無いだろうから、無難に選べそうだ。


 でも、気に入った柄のマフラーを見付ける度に、俺に巻いて合わせるので何か変な感じがしたけれど、「長さを見ているだけ」との事だったので大人しく付いて回った。


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 プレゼント用のマフラーを購入した後は、喫茶店に行ったりゲームセンターにいったり先輩の服を見に行ったりして過ごした。

 途中で寄ったアクセサリー店では、安物だけど可愛いノンホールピアスがあったので、何となく先輩にプレゼントしてみた。

 先輩は直ぐに付けて凄く喜んでくれた。

 そんな感じで、ただのお供だったけれど結構楽しい時間を過ごせた。


 陽が落ちて来てそろそろ帰宅かと思ったら、先輩から夕食に誘われた。

 今日は日曜日なので、来栖さんは来ないから夕食は無い。

 喜んでご一緒させて貰うことにした。


 先輩に連れられて、商業ビルの屋上にあるレストランに入った。

 やや暗めの照明で、テーブルにロウソクが灯してある落ち着いた雰囲気のお店だ。

 俺はこんな店に入った事はない。


 美麗先輩は明るい日差しの下でも綺麗だけれど、間接照明とロウソクの炎に照らされた先輩はヤバかった。

 美咲ちゃんの美しさが太陽の陽射しだとすると、美麗先輩の美しさは月光の美しさだ。

 思わず呆然ぼうぜんと見つめてしまった。


「ねえ、蒼汰君」


「は、はい」


「今日は無理を言って、付き合わせてごめんね。ありがとう」


「い、いえ。と、とんでもないです。た、楽しかったです」


「本当?」


「は、はい。ほ、本当に、め、めっちゃ楽しかったです」


「そっか。そう言ってくれると嬉しいな」


 先輩は俺の言葉が本当かどうか確かめるかのように、ジッと見つめて来た。

 見つめられると、とてもじゃないが俺は正視せいしできずにうつむいてしまう。

 言葉もあまり上手く出てこない。


 先輩、止めて……。




 食事を終えてデザートを食べていると、先輩の口数が段々と減ってきて、表情も何となくしずんで来た。


「先輩?」


「あ、あのね、蒼汰君。私の我儘わがままを、もうひとつ聞いてくれないかな……」


 先輩が急に心細そうな表情になった。


「え、ええ。何でしょう」


「来週のイブの日。プレゼントを渡す相手を呼び出す時に、一緒に居てくれないかなぁ」


「え? ええっ!」


「無理かなぁ……」


 先輩が不安気に見つめている。


「い、一緒にですか? せ、先輩はそれで良いんですか?」


「うん大丈夫。お願い!」


 先輩は手を合わせて眼をつぶっていた。

 憧れの美麗先輩にそこまでお願いされて、俺が断れる訳が無い。


「わ、分かりました……」


「えっ、本当に! ありがとう!」


 眼を開けた先輩の表情が一気に明るくなった。


「な、何時に、ど、何処に行けば良いですか?」


 クリスマスパーティーの時間と被らない事を祈った。


「えーと、えーと。夜七時前に港展望公園に行きたいから、六時半頃に駅前で待ち合せで良い?」


「りょ、了解です」


 六時過ぎなら美咲ちゃんも居ないし、パーティーを抜けても大丈夫だな……。


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「じゃ、蒼汰君。来週頼んだよ!」


 クールにそう言って、美麗先輩は去っていった。

 でも、途中で何度も振り返って可愛く手を振ってくれる。

 美麗先輩……キャラどっちかに出来ませんか……。


 今日は楽しい一日だった。

 もちろんデートじゃないけれど、女性と二人でこんな風に過ごしたのは初めてだ。

 しかも相手はあの美麗先輩。こんな経験はなかなか出来ない。


 美麗先輩……。

 先輩の服を見に行った時に試着の度に先輩のブラが見えていた事と、雑貨屋とペットショップでしゃがんだ時に薄紫のパンツが見えていたことを、俺は一生忘れません……。

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