第57話 「先輩との待ち合わせ」

(蒼汰)

 日曜日は快晴だった。

 先輩との待ち合わせ場所は、バスと電車を乗り継いで行く、百貨店やショップが立ち並ぶ近隣で一番大きな街だ。

 桐葉先輩との待ち合わせは十時。

 先輩を待たせる訳にはいかないので、二十分前に待ち合わせ場所のオブジェに到着した。


 オブジェの周囲には、待ち合わせの人が沢山いる。

 まあ、この人たちはきっとデートの待ち合わせだと思うが、俺はただのお供だ。

 待っている人達を眺めていると、可愛らしい格好をした女の子が結構いる。

 今から彼氏が迎えに来るのだろう。うらやましい限りだ。

 何処かに導火線か爆破スイッチがないか?


 待ち合せをしている人達の中に、俺好みで眼を引く格好をした女性がいた。

 グレー系のグレンチェック柄のスカートに、白いニットを内側に着た女性だ。

 白いニットの時点で既に高得点だが、更に腰の高い位置から広がるスカートのプリーツの感じなど最高だ。

 肩まである髪もサイドの部分を後ろで軽く束ねて、後は自然な感じで流している。

 やや厚底のブーツも可愛くて、見る限りスタイルも抜群だ。

 もしも、この女性とそっくりなフィギュアが売っていたら即買いだ。


 いったいどんな格好良い彼氏がやって来るのだろう……。

 そうだなぁ、早野先輩とかだとバッチリかな……。


 そんな事を思いながら眺めていると、その女性が不意にこちらを振り向いた。

 思った通り綺麗な人だった。

 しかも、その女性が手を振りながら近づいて来る。

 手を振っている相手が俺のはずがないので、後ろに誰かいるのだろうと思い、振り返ったが誰も居なかった。

 手を振りながら近づいて来る女性は……桐葉先輩だった。

 俺は腰が砕けそうになった。


「ごめん。来てたんだね。気が付かなかった!」


「い、いえ。す、すみません。せ、先輩の方が早かったですね。お、お待たせしました」


「全然! いま来たところ。それに待ち合わせ時間はまだだよ」


 そう言って、先輩は笑顔で俺の腕を軽くつかんだ。

 周囲からの視線が痛い。完全に公開処刑状態だ。


 違うんです。カップルじゃないんです。今日はお買い物のお供に来ただけなんです。ただの下僕げぼくなんです。


 周囲の人たちに、そう言って回りたかった。


 ----


 お洒落をした桐葉先輩は、滅茶苦茶綺麗だった。


「き、桐葉先輩……」


「美麗で良いよ!」


「あ、はい。美麗先輩」


「なあに?」


「き、今日は、今日は、め、め、滅茶苦茶、き、綺麗ですね……」


「えっ。そ、そう……あ、ありがとう」


 先輩が少し赤くなっていた。

 いつものクールな先輩と違って、何だか可愛らしい。

 正直、先輩のプレゼントの相手がうらやましくて仕方がない。


「か、買い物行こっか!」


 先輩は嬉しそうに前を歩き始めた。

 好きな人の事でも思い出したのかな……。

 俺は少し前を歩く先輩の後を速足で追いかけた。

 すると先輩が急に振り向いた。


「綺麗なのはって事か?」


 いつものクールな口調だ。

 何だか怒りのオーラをまとっている。


 ええぇ……。何か失言でもございましたでしょうか……。


 俺は頭をフル回転させて自分の発言を思い出し、何とか思い当たるワードに行きついた。


「い、いえ。今日はではなくて。い、、き、綺麗ですってことでますです」


「よし! 蒼汰君、許す!」


 そう言って笑顔でまた歩き始めた。

 冬なのに背中に冷や汗が流れていた……。

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