第52話 「生徒会長選挙」

(蒼汰)

 文化祭の翌日から夏目先輩が毎日教室にやって来るようになった。

 目的は生徒会会長選への俺の出馬だ。


「俺は本当に無名ですし、何の実績もありませんし、誰からも期待されていませんし、そもそも生徒会の会長なんて、本当に興味がありません。申し訳ありません」


 話が出る度に、丁寧にお断りした。


「蒼汰もそう言ってるし。夏目、許してやれよ」


 早野先輩もニヤニヤしながら聞いていたけれど、途中から夏目先輩を説得してくた。

 本当に俺が出馬なんてしたら「誰だあいつ?」状態だ。

 得票は多分十票くらいしか入らない。

 推薦すいせんするといっている夏目先輩の顔に泥を塗るだけだ。

 無理無理。


 五日後に『生徒会会長選挙』に向けた全校集会があり、会長候補者の紹介と演説がある。

 候補者は前日までに、選挙管理委員会である現生徒会に候補者名と推薦人五名の名前を書いた書類を提出しないといけない。

 夏目先輩は渋っていたが、早野先輩達と話して流石に諦めてくれたようだ。

 本当に良かった。




 そして、全校集会の日になった。

 夏目先輩が壇上に上がり、生徒会長として最後の挨拶をした後、選挙の方法や手順を説明している。

 壇上の夏目先輩は、昼休みや家に遊びに来る時とは全くの別人で、口調も厳しく冷徹な雰囲気を崩さない。流石は生徒会長という感じだ。


 夏目会長が壇上から降りて、他の生徒会役員が新生徒会会長候補の名前を読み上げ始めた。


「候補者、二年伊達だて 秀哉しゅうや。推薦人、田中……」


「候補者、二年前園 まえぞの 絵梨奈えりな。推薦人、中野……」


「候補者、一年佐藤さとう はじめ。推薦人、吉住……」


 候補者と五人の推薦人の名前が読み上げられ、その度にざわめきや拍手が起こっていた。

 候補者は成績がトップクラスの人や普段から人気のある人達だ。

 誰が生徒会長になってもおかしくないメンバーだった。


「候補者、二年上条かみじょう 蒼汰そうた


「は?」


 思わず大きな声を出してしまった。

 クラスの連中が一斉に俺を見た。

 俺は首を大きく横に振って、知らないアピールをした。

 な、なんだそれ!


「推薦人、夏目なつめ さとし早野はやの 涼介りょうすけ、望もちづき 快人かいと桐葉きりは 美麗みれい


 推薦人のそうそうたる名前に、どよめきが起こると共に、

「上条って誰だ?」「知ってるか?」「そんな奴居たか?」

 という声が広がっていた。

 そりゃそうだ。

 唯一、早野先輩のクラスから歓声と拍手が起こっていた。

 ちょ、ちょっと先輩方、何をしてくれてんですか!?


「上条候補ですが、推薦人が四名の為、残念ながら失格となります」


 続くアナウンスに場内のどよめきは更に大きくなった。

 失格になったことに安堵あんどしたが、夏目先輩がそんな失敗をするはずが無い。

 先輩達は何をたくらんでいるのだろうか。

 いや、それともただの悪戯いたずらか?


 その後、各候補者の演説があり全校集会は終わったが、俺は一躍いちやく時の人になってしまった。


「夏目会長や早野先輩が推薦した、上条ってどんな奴だ?」


 ということで、色んな生徒が俺を見にクラスまでやって来た。

 逆に先輩達はピタリと来なくなってしまった。

 そして、投票日になり。翌日、投票結果が貼りだされた。


「伊達 秀哉 三三五票、前園 絵梨奈 一八七票、佐藤 一 七五票、無効票(上条 蒼汰)二五三票」


 学内がまた大騒ぎになった。

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