第53話 「先輩達の選挙活動」
(蒼汰)
その日の昼休み、四人の先輩が顔を揃えてやって来た。
四人とも超笑顔だった。
「蒼汰。惜しかったなぁ」
「いや、惜しかったじゃないですよ」
「俺たちの選挙活動が力及ばず申し訳ない」
「選挙活動って、先輩達何をしてたんですか?
「いや、俺たちは悪戯とかしてないぞ。本気本気!」
「三年生の殆どがお前に投票してくれたぞ!」
「だから三年生は殆ど無効票。うひゃひゃひゃ」
あまりに楽しそうに笑うので、文句を言う気も無くなってきた。
先輩達が楽しかったなら、まあ良いか。
「本気って。そもそも俺が生徒会長とかできる訳ないでしょう。失格だったし」
「推薦人が四名で失格って、なかなか面白かっただろう!」
「だいたい、生徒会長がこんな悪戯に参加して、大丈夫なんですか?」
「いやいや、俺は目的に対して最も効果的な手段を選んだだけだよ」
「ちょっ、先輩。いったい何を
「いや、蒼汰が生徒会長は絶対にしないって言うから、生徒会長は諦めただけさ」
「何ですかそれ?」
「何でしょうねえ」
先輩達がニヤニヤしている。
「そろそろじゃない?」
桐葉先輩が廊下の方を見ながら呟いた。
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しばらくすると、廊下が少し騒がしくなって教室に一組の男女が入って来た。
二人は先輩達に深々と礼をすると、俺の前にやって来た。
新会長の伊達 秀哉と、次点だった前園 絵梨奈だった。
「上条君ですね。僕は伊達と言います。隣は生徒会の新書記になった前園さんです」
「は、はい……」
「上条君にお願いがあって来ました」
「え、お願いですか?」
「はい。上条君に生徒会の副会長になって欲しくて、お願いに来ました」
「……」
ちょっとなんなのこの展開……。
生徒会役員の選定は、生徒会長の指名制だ。
「副会長」「書記」「会計」の三名を、新生徒会長が好きに選ぶことができる。
もちろん指名されても、受けるか受けないかは本人次第だが、普通は生徒会に興味がある人にしか声はかからない。
俺なんかには、絶対に声が掛かってはいけない役目だ。
「いや、俺なんかには絶対
「いえ、先輩方から話を聞いて、上条君なら大丈夫だと思いました」
「それに忙しいのとか無理だし……」
「蒼汰。生徒会忙しくないぞ、せいぜい一週間に一回集まる程度だぞ」
夏目先輩がすかさず退路を断ってくる。
「いや、俺は人の為とか全然考えられないし……」
俺の返事を聞いて、早野先輩が立ち上がって寄ってきた。
「蒼汰。そんなことはないぞ。俺はお前と出会ってから、お前が他人の為に何かする姿しか見たことないぞ」
「そ、そんな買い
「いいや。俺たちの買い被り程度で、三年生の票があんなに入る訳ないだろ」
「……」
「俺らのやった選挙活動は『無効票になるけど上条蒼汰に投票してくれ。蒼汰は文化祭の時に必死で頑張ってくれた、あの蒼汰だ』って言って回っただけだ。クラスの連中も全員喜んで手伝ってくれたぞ」
「……は、はい」
「それとな、蒼汰……」
先輩が他の人に聞こえない様に、俺の耳元で
「……分かりました。副会長やります!」
俺の返事を聞いて、夏目先輩がガッツポーズをしている。
他の先輩達も嬉しそうだ。
俺は新生徒会長の伊達君と握手をした。
その後、放課後まで説得されて「時間の有る時だけの参加で大丈夫」という条件で、新会計も決まった。
新生徒会のメンバーが揃った。
生徒会長
副会長
書記
会計
俺がこの条件を提示されて、断る訳ないじゃん。
美咲ちゃんとの幸せな日々がまたはじまるぜ!
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