第51話 「蒼汰君に拍手!」

(蒼汰)

 『メイド&執事喫茶』に戻ると、教室の前に入店待ちの長い列ができていた。

 中に入ると、早野先輩はメイドから着替えて『執事』の格好になっていた。

 俺から見ても分かる。先輩、超カッコ良い。


 早野先輩から給仕をされる女子は全員目がハートマークになっていた。

 記念撮影を依頼されると、肩を抱いて笑顔で写る。

 早野先輩と執事服は無敵の組合せだ。

 生徒の保護者ですらメロメロで、女子生徒以上に密着して記念撮影をしていた。

 果ては、保健医の佐倉ちゃんや女性教諭までやって来る始末だった。


 俺はメイク直しをされて、本物の女子のメイドに紛れてお手伝いをした。

 女性と間違えられて、何人かツーショットでの記念撮影を申し込まれたが、後で男だと分かった時の事を思うと、ちょっと申し訳ない。

 男子達と記念写真を撮る度に、メイクをしてくれたお姉さま方がニヤニヤしていた。


 文化祭の模擬店や展示は五時半に終了になる。

 まだ廊下に人が並んでいたけれど、時間の延長はできないので喫茶店は終了となった。

 それでも早野先輩を見る為に、女性のギャラリーが廊下に沢山残っていた。



 

「今日はありがとう。お疲れ様」


 メイド服を着たまま片付けを手伝っていると、執事服の早野先輩が背中から抱きついて来た。

 余りの格好良さに、俺の胸はときめいた……。

 いや、そんな事は無いが、ちょっとドキドキした。

 廊下にいるギャラリーが殺気立つ。


「ねえ。この娘と写真撮ってよ!」


 早野先輩が手招きすると、お姉さま方が集まって来てツーショットの写真を撮ってくれた。


「誰、あの女。何者?」


 廊下のギャラリーから非難の声が上がる。

 いや、男だからね!

 早野先輩、わざとやっているだろう……。


「蒼汰。今日は本当にありがとう。お前のお蔭で凄く楽しい文化祭になったよ。みんな、蒼汰君に拍手!」


 先輩は俺から離れると、そう言って拍手をし始めた。


「……いえ、とんでもないです。俺こそ楽しかったです」


 クラスのお姉さま方もお兄さま方も集まってきて、一斉に拍手をしてくれた。

 男だと分かって安心したのか、廊下のギャラリーも釣られて拍手をしている。

 俺はどうして良いか分からず、ぺこぺこと頭を下げ続けた。


 今まで、こんな風に注目されたことは一度もない。

 また先輩のお蔭で、新しい経験をさせて貰った……。


 ----


 片付けが終わり着替えようと思っていたら、先輩に呼び止められた。

 特に用事がある訳では無さそうだったけれど、しばらく他愛の無い話をしていた。


「蒼汰。そろそろ着替えておいで」


 先輩が急に立ち上がり、カーテンの奥へと送りだされた。

 今朝メイド服に着替えたところだ。

 もう一枚カーテンを越えると……。


 ブラジャーと制服とメイド服とパンツが視界に飛び込んで来た。

 メイド服で給仕をしていた先輩達が着替えの真っ最中だったのだ。


「あっ、ごめんなさい」


 俺は直ぐに反対方向を向いてカーテンから飛び出た。

 早野先輩が焦って出て来た俺を見て爆笑している。


「蒼汰。今日のご褒美ほうびだ」


「勘弁して下さい。捕まりますって……」


 カーテンの中から可愛い笑い声が上がり、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「蒼汰くーん。お姉さん達と一緒に着替える?」


「女の子同士だから大丈夫よー」


 俺は顔が真っ赤になってしまった。


「おー、蒼汰! 羨ましいなぁ」


 早野先輩が俺の肩をポンポン叩きながら笑っている。

 先輩……お姉さま方の下着姿はちょっと嬉しかったけれど、めっちゃ恥ずかしいです……。

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