第38話 「先輩達の来襲」

(蒼汰)

 続く注目の『百メートル徒競走』は、流石に望月先輩がライバルの早野先輩を下した。

 男子生徒達のまるで自分達が勝ったかの様な盛り上がりが凄かった。


 そして運命の最終種目『選抜リレー』だ。

 青組と俺ら緑組は既に優勝戦線から脱落していて、この種目に勝っても二位だ。

 でも、早野先輩率いる紅組が勝てば紅組、望月先輩が率いる白組が勝てば白組が優勝する得点差。

 否応なしに盛り上がってくる。


 結果は校内スポーツエリートを揃えた白組がバトンの受渡しで痛恨のミス。

 最終走者の早野先輩がかなりのアドバンテージを持って走り始め、遅れてバトンを受取った望月先輩が猛追走。

 望月先輩が追い付く寸前まで行ったが、早野先輩がそのまま一着でゴールテープを切った。

 総合優勝を決めた紅組の歓声と、他の組からの拍手が巻き起こった。

 全然興味が無く、つまらないと思っていた体育祭も、終わってみればなかなか楽しかった気がする。




 閉会式の後、体育祭の片付けが始まった。

 応援席のやぐらは業者が片付けるが、その他の用具類は生徒で手分けをして片付ける。

 そして、片付けが全部終わると、応援席にそれぞれの組で集まり解散式が行われた。

 最後の挨拶で感極まって涙声になる団長。

 それに釣られて周りの女子からすすり泣きの声が聞こえる。


 長い体育祭の期間が終わった。

 流石に少し感動したが、解散するや否や応援団男子の周りに女子が群がり始め、写真撮影や一部で告白大会が始まった。

 そう言えば応援団にはブーストが掛かるんだったな。

 チッ! 爆発してしまえ!


 そんな青春野郎共を尻目に、俺は教室に戻る事にした。

 戻る途中で保健医の先生と美咲ちゃんが話しをしていた。きっと美咲ちゃんを心配して見に来たのだろう。

 綺麗な美咲ちゃんを見つめながら歩いていると、保健医の先生と目が合った。

 すると、保健医の先生が目を見開いて走り寄って来たのだ。


 うわ、ヤバい。ごめんなさい。美咲ちゃんのお胸を触りたいと思ったけど、触ってはいません。本当です。

 美咲ちゃんのお腹にフニフニしてクンクンしたのは事実ですが……。


 おびえる俺の手を握って、美咲ちゃんの方へと引っ張って行く。

 先生! 女性と手を繋ぐのは数年振りです。責任取って頂けますよね?

 いけない妄想を始めてしまったが、一体何の用事だろう。


「天野さん。この子よ、この子。あなたを運んで来た男の子。この子!」


「蒼汰君?」


「あ、あい……」


「天野さんに誰だか聞かれたけど、名前聞いて無くて。会えて良かった!」


 先生は手を握ったままだ。緊張で手汗をかいてきた。


「蒼汰君だったんだ。有難う」


「い、いや。そんな。あたりまえだから。み、美咲ちゃん。き、気にしないで……」


「あら、二人は知り合い? あっ! もしかして、そういう事? 良いなぁ。青春ねー」


 やっと俺の手を放したかと思うと、先生は胸の前で手を組み、何か妄想話を独り言の様に呟き始めた。何だこの人……。


「おお! 美咲ちゃん!」


 青春妄想物語を語る保健医の先生が去っていくと、美咲ちゃんを呼ぶ声がした。

 振り向くと、早野先輩と望月先輩、そして少し後ろに青色クイーン先輩がいた。

 桐葉きりはさんだっけ? とても綺麗な人だ。


「ねえねえ、美咲ちゃん。やっぱりこの後の打ち上げ来てよ!」


 早野の奴、気安く美咲ちゃんを呼ぶな! 誘うな!


「おお! 涼介りょうすけ。美咲ちゃんって、お前が言ってた、あの美咲ちゃん?」


「そうそう、この娘この娘。可愛いでしょ!」


「おう。マジで可愛いな。美咲ちゃん来てよ!」


 ……望月お前もか!


「ごめんなさい。本当に忙しいので……。申し訳ありません」


 良いぞ美咲ちゃん。美咲ちゃんは俺と打ち上げなんだ!

 予定は一切無いけど、そうなんだ!


「うはっ! また振られた。快人かいと、俺を抱きしめて慰めて!」


 早野先輩が両手を開くと、望月先輩が抱きしめた。


「……快人。そこはダメ。皆が見てるわ」


 目の前で野郎二人がふざけてイチャつき始めた。

 何やってんだ、この先輩達は……。

 でもまあ、悪い人達では無さそうだ。

 美咲ちゃんも笑っている。

 いや、美咲ちゃんを誘う限り俺の敵だ! 気を許してはいけない。

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