第36話 「美咲さま……いや……」

(蒼汰)

 体育祭に戻ると、応援団の最後の組の演舞えんぶが始まる所だった。

 腹に響く和太鼓の音に合わせて、地面に付きそうな長さの鉢巻きをした応援団員たちが舞っている。

 手袋の色まで整っていて、決めのポーズがいちいち格好良い。

 その度に女子達の黄色い声が上がる。

 三種類の舞を披露して、最後は後方から走り込んで来たスポーツ万能団員のムーンサルトが決まり終了。

 歓声と拍手が沸き起こった。

 とても格好良いけど、演舞を完璧にこなす為にあんなに毎日必死に練習するとか、俺には無理な話だ。


 その後の男子組体操が俺の出番だ。

 気合を入れて俺は全てを成功させた。完璧だ。

 「サボテン」と「扇」と「ピラミッドの補助」。失敗する方が難しい。


 そして、お待ちかねの女子のダンスが始まる。

 でも、俺が一番見たい女子は居ない。きっとまだ保健室だろう。

 練習の時に何時も見つめていた場所を切ない気持ちで見つめる。


 あれ? 居るぞ!

 美咲ちゃんが居る!

 黄緑のボンボンを手に付けて踊っている。

 良かった。元気になったんだ。

 うんうん、お胸も元気そうで何より……。

 それにしても、曲の合間のポージングが超可愛い。

 俺は最後の猫耳ポーズで萌え死んだ。

 美咲ちゃん最高!


 やっぱり美咲さま……いや、美咲ちゃんは誰にも渡したくない。

 「さま」とか言ってあがめているうちに、誰かにさらわれたら馬鹿みたいだ。

 頑張れ俺! 頑張るぞ俺!

 何を頑張れば良いのかがさっぱり分からないのが問題だけどね……。

 取りあえず普通に話せるようになりたい。

 うーん。ハードル高けえなぁ。


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 体育祭は佳境かきょうに入って来た。

 現在得点トップは白組。そして赤、緑、青という順位だ。

 残るは『男女混合騎馬戦』『百メートル徒競走』『選抜リレー』の三種目だ。


 先ずは『男女混合騎馬戦』の選手が入場する。

 一年生の時は『男女混合騎馬戦』というプログラムを見た時に、騎馬戦は危険なのに男女混合というのが不思議だった。

 どう考えてもエロ要素満載な気がしたので、思わず選手に立候補しようかと思ったが、内容を聞いて止めた。

 エロ要素は無かった。


 勝負はジャンケンで決まる。基本的に接触はNG。

 男女の応援団長がキングとクイーン騎馬で、その他の騎馬がそれを守る形になる。

 向かいあったらジャンケン勝負になるが、するかしないかはお互いのやり方次第。

 但し、勝負を避けて逃げ回る騎馬が有利にならない様に、騎馬の誰かが背中を触られたら負けだ。

 そしてこの競技は、四つの組が同時に激突するので、どの組を潰していくのかの戦略が必要になる。


 騎馬の準備が整い、号砲が鳴らされた。

 当然、現在得点が一番高い白組に他の三色組が殺到する。

 あっという間に切り崩されていく白組の騎馬隊。

 体育会系エリートで馬を固めた白組キング騎馬が俊足を活かし逃げ回っていたが、三色連合の騎馬隊に囲い込まれ、あえなく討ち死に。

 その後は乱戦になった。

 ジャンケンでは互角だが、女子騎馬は機動力で男子騎馬に後れを取る事が多く、背中をタッチされて次々に数を減らしている。


 そうか! その手があったか……来年は参加しようかな。


 戦局よりも女子騎馬のお胸ばかり見ていた俺は、合法的に女子にタッチできる作戦に感動を覚えていた。

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