第35話 「めまい」
(美咲)
体育祭の午前の部がやっと終わった。
最初の競技から大盛り上がりで、とても楽しかった。
蒼汰君は障害物競争に出て最初トップだったけれど、平均台で落ちた上に、ラケットに載せたボールを落としたせいで三着だった。残念。
私は結衣ちゃんと一緒に二人三脚に出て、何とか一着だった。
この後は午後の部で女子全員でのダンスに参加して、後は応援するだけね。
お昼は結衣ちゃんと仲の良い女子で集まって、教室で一緒にお弁当を食べる事になった。
蒼汰君は結衣ちゃんに机を取られて航君達と外に行ってしまった。ごめんなさいね。
でも、蒼汰君のお弁当が美味しかったら嬉しいな。
朝から体調は良く無かったけれど、お昼を食べ終わると一気に
そう言えば今日は朝からあまり水分を取っていなかったから、飲物を買いに行く事にした。
学食の販売機で飲物を買い、立ち上がった時に
少しふらつきながら、渡り廊下を歩いていたら誰かに話しかけられた。
「天野美咲ちゃんだよね。ちょっとだけ話しできる?」
「……急いでいるので、ごめんなさい」
とにかく教室に戻って座りたかったので、相手の顔も見ずに返事をしてしまった。
「一分。いや三十秒で良いから、話を聞いてくれないかな?」
相手の顔を見ると、午前中に皆が騒いでいた何とかいう先輩だった。
「いえ。本当に……」
「あ、ヤバ。ちょっとごめん付いて来て」
断ろうと思ったら、何故か隠れるようにして急いで行ってしまった。
先輩の行った逆方向から三年生の女子が数名歩いて来て、何とかいう先輩を探している様子だった。
そのまま教室に帰ろうかと思ったけれど、流石に先輩を無視して行くのは失礼なので、断るために追いかけた。
なかなか追いつけずにいると、先輩は応援席の裏手に入って行った。
やっと追い付いたから、謝って断ろうと思ったら、その前に先輩が話を始めた。
「俺は三年の早野といいます。今日の体育祭の後に、内輪だけで打ち上げやる予定なんだけど、天野さんにも是非参加して貰いたいと思って」
「え? そんな事急に言われても」
「だよね。でもさ、前に天野さん見かけた時に可愛いなって思って。お話しして見たくてね。ダメかな?」
「いえ、忙しいので……申し訳……」
「いきなりで、戸惑ったかも知れないけどさ……」
この辺からの会話があまり記憶に無い。
多分、お誘いをお断りしたと思うけれど、分からない。
先輩が立ち去った後、目の前が暗くなって何かに掴まってしゃがみ込んだ所まで覚えている。
その後、誰かと話した気がするけれど、誰と話したのか分からない。
蒼汰君の声を聴いた気もするけど、そもそもあの場に蒼汰君は居なかったから、違う気がする。
そして、気が付いたら保健室に居た。
最初は何故保健室に居るのか分からなかったけれど、少しすると頭の中がはっきりしてきて状況が理解できた。
私、倒れて保健室に運ばれたのだ。
また、やっちゃった……。
この体調の時は気を付けるようにと、前に
心配する保健医の先生に、こうなった理由を話したら納得してくれた。
先生がカーテンの向こう側に行って、誰かに帰るように
室内に誰か居たのだ。理由を小声で話して良かった。
でも、自分を助けてくれた人かも知れないと思い、慌ててお礼を言おうと思ったら外に出て行ってしまった。
先生は戻って来ると、私が買った飲物を手渡してくれた。
落ち着いて見ると、先生は背が低くて童顔で凄く可愛い人だった。
「今頃飲んでも遅いぞー。水分は喉が渇く前に補給しないと。それに、日頃から鉄分とかしっかり取っておかないとダメよ」
「……はい。今後気を付けます。」
「まあ、知っている内容だとは思うけど、これ渡しておくわね」
先生は『ほけん通信』と書かれた紙を渡してくれた。
貧血についての説明と、貧血予防に良い食べ物が書いてあった。
しばらく横になっていたら、立ち上がっても全く問題ないくらい回復したので、体育祭に戻ることにした。
保健室を出る前に私を助けてくれた人の事を聞いたら、男子だけど誰だか分からないとの事だった。
「必死な顔をしながらあなたを運んで来て、凄く心配そうにしていたわよ。何か素敵ねー! 青春って感じね。良いなぁ……」
可愛らしい先生が突然乙女モードになって、更に可愛くなってしまった。
先生にお礼を言って、保健室を後にした。
体育祭は男子の組体操が始まっている。
急げば女子のダンスに間にまだ合う。
貧血が少し怖いけれど、ここ一ヶ月折角練習して来たので、頑張って参加しよう。
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