美咲の瞳と三十路のひな
第16話 「鍛錬遠足」
(蒼汰)
鍛錬遠足の日がやって来た。
出発地点にはジャージ姿でリュックを抱えた生徒が溢ている。
学年はジャージの色で判別できる。
今年の三年生はモスグリーン。二年生はえんじ色。一年生は紺色だ。
来年の一年生はモスグリーンだな。まあ、どうでも良い事だが……。
一年生達は過酷と言われている鍛錬遠足に初めて参加する不安からか、一様に緊張した面持ちをしている。うんうん、俺らも去年はそんな顔をしていたよ。
俺ら二年生は経験済みなので、皆普通に過ごしている。
そして三年生にもなると、面倒臭さが
受験生だからサボりたいところだろうが、この行事の欠席者は、後日元登山部の体育教官と共に更に険しいコースを歩くという過酷な補習が待っているそうだ。
補習の事を考えると、わざわざサボる方が馬鹿を見るのだ。学校側もなかなかやるな。
とは言っても、山道を歩く間に体調が悪くなったり怪我をする場合もある。
その為のクラス委員だ。各クラスの最後尾を歩き、クラスメイトに何かあれば対応する。
俺と美咲さまは遠足のクラス委員だから常に一緒に歩き、何かあれば一緒に行動するのだ。最高だろう?
『美咲ちゃん、疲れただろう。ほら俺が引っ張ってあげるよ』
『ありがとう。蒼汰さん優しいね』
『俺が優しいのは、美咲ちゃんにだけだよ』
『知ってる……ウフフ』
くうー、堪らねえ。鼻血出そう……。
「蒼汰! 何突っ立てるの! 早く点呼を済ませて来て!」
結衣の奴め。俺の幸せな妄想を邪魔しやがって。
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出発は三年生のクラスからから順番だ。一応グループ単位の行動だから、少しずつ間隔を開けてスタートする。
二年生の自分達が出発するまでには結構時間がかかるのだ。
「ねえねえ蒼汰。お菓子何持って来た?」
結衣はいったい何を考えているのだろうか。高校生にもなって遠足にお菓子など持って来るか?
「菓子とか持って来てねーよ。ポキポキとバナナだけしか」
「蒼汰、馬鹿じゃないの」
「何でだよ」
「ポキポキはチョコ溶けちゃうよ」
お前が正しいよ。確かにそうだ。俺が馬鹿だったよ。
「美咲ちゃんは?」
おお、良いぞ結衣。美咲さまの好きなお菓子の情報が分かるじゃないか。
「あ、お菓子持って来て良いのか分からなくて……バナナだけ」
おう! 美咲さま気が合うじゃないですか。
そう、やっぱりバナナですよね。総合栄養食。世界最強の食物。バナナ最高だよね。俺と美咲さまはバナナで繋がっている!
まあ、食卓に置いてあったのを持って来ただけだけどね。
「そうなんだ。じゃあ後で一緒に食べようよ。私はね、ポテトスマッシュと探してポテトとポテットポテトを持って来てるから」
何で全部ポテトなんだ? しかも登山で喉が渇くのに塩気の多い菓子ばかり。
だいたいその量を持って来ているのなら、お前のリュックの半分はお菓子じゃねーか。
「結衣。お前は馬鹿みた……」
「本当に! ありがとう。わたし昔からポテトスマッシュ好きなんだ」
「エホン……結衣。お前は馬鹿みたいに気が利くな。流石、偉い!」
「オホホホ。分かれば宜しい。アホ蒼汰のポキポキも我慢して食べてあげるからね」
ポテトスマッシュか……。
「アホ」は余計だが、結衣ファインプレーだ。
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