第15話 「家政婦のお仕事」

(美咲)

 上条君の家で派遣の家政婦として働き始めて二週間が経った。

 お休みの日以外は、毎日上条君の家に行っていることになる。


 上条君は家に帰って来ると殆ど部屋から出てこない。

 夕食の時も食事の準備が出来た事を伝えると「頂きます」と言いながら、自分の部屋に持って行ってしまう。

 食べ終わると「ご馳走様」と言って、食器をキッチンに持って来てくれる。

 アルバイトをするために放課後の委員活動があまり出来なくなったせいもあり、学校では話す機会が減ってしまった。

 業務的な内容だけれど、家政婦として話す回数の方が多い様な気がする。

 学校と違って家だと割と気さくに話すのがちょっと不思議。


 夕食の準備が終わると洗濯に取り掛かる。

 洗濯をすると言っても、洗濯物を入れて洗剤を入れるだけで、後は乾燥まで洗濯機がやってくれる。

 何故だか分からないけれど、私は洗濯槽の中で洗濯物が回っているのを見るのが好き。仕事中だけど時々見入ってしまう。

 そんな時に限って、いつもは部屋にいる上条君が、洗面所の外から変な顔をして見ていたりするので慌てて他の仕事をして誤魔化している。


 バイトの時間内では乾燥までは終わらないので、翌日のバイトの時に洗濯機から取り出して衣類用のタンスや収納にしまい込むのが、洗濯の一連の作業だ。

 同級生の洗濯物を洗ったり畳んだりしていると、何だか後ろめたい感じがする時もあるけれど、仕事だと自分に言い聞かせて、粛々しゅくしゅくと作業を進めている。


 上条君の家は広くて、部屋が六部屋もある。

 でも、上条君とお父様の部屋以外は物置状態になっている。

 初めて来た時からそうだったけれど、家中に荷物が置き放しになっていて、掃除をしながら少しずつ片づけて行っている。

 置き放しになっている荷物の殆どは、収納したり中身を取り出して外箱を片付けてしまえば、簡単に部屋が広くなっていくものばかりだった。

 先ずはリビングとダイニングを片付けて、徐々に他の部屋も綺麗にしていこうと思う。

 そう言えば、上条君の部屋は常に鍵がかかっていて、なかなか掃除ができない。

 一応全ての部屋の掃除をする契約なので、上条君が居ない時に鍵が開いていれば掃除をしに入ろうと思う。


 夕食の準備は食材の買い物から始まる。

 十八時に仕事を始める為には、バス停の傍のスーパーで十七時半までには買い物をしなくてはいけない。

 上条君のお父様は買い物の時間まで日当に入れて下さる。

 自分の分まで作らせて頂いているのに、本当に申し訳ない。

 そう言えば、例の変装した仕事着のままで買い物をするので、周りの買い物客からギョッとされることが多い。

 どんなに奇異きいの目で見られても、私と分からないのだから関係ない。良しとしよう。


 鍛錬遠足の時に上条君のお弁当の中身を作り置きして欲しいと頼まれた。

 長時間置くことになるので、出来る限りいたみ難い物にした。

 梅のおにぎり、煮物、小魚の甘露煮かんろにを作って、冷蔵庫に入れておいた。

 明日の朝、上条君がお弁当を忘れない様に食卓の上にお弁当箱を置き、冷蔵庫から取り出して中身を詰めて貰うようメモ書きを残した。

 あと、バナナが特売でとても安かったから、自費で買って置いておいた。

 煮物は沢山作ったので、持ち帰って自分のお弁当用に使わせて貰った。


 高校生の「天野美咲」と、家政婦をしている「来栖ひな」。

 この二重生活にも、少し慣れて来た気がする。

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