第12話 「変装」
(美咲)
派遣先の家には直ぐに辿り着くと思っていたけれど、三十分近く歩いても辿り着かない。
自宅で確認した時はバス停から十分足らずの場所だったはずだ。
何処かで道を間違えたのか、海沿いの道に出てしまいスタート地点のバス停が見えて来た。
「……」
自分のドジさに
これぐらい大丈夫だと思って、地図を見ずに行ったのが良くなかった。
地図アプリで確認したら、最初に通った道が間違っていたみたい。
先程とは違う道を歩き始めた。
ひとつ目の角を曲がると、同じ高校の制服を着た男子生徒が前を歩いていた。
変に
でも、その男子生徒は私が行く方向に進み、曲がる予定の角で曲がる。
もしかして、派遣先の家の近くに住んでいるのかしら……。
派遣先の家はこの先だ。少し不安がよぎる。
前を歩く男子生徒は相変わらず私の前を歩いている。
それに、後ろ姿に何となく見覚えがある気がした。
さらに少し歩いたところで男子生徒が家の門に入って行き、その時に横顔が見えた。
私が知っている男の子の顔に良く似ている。
男の子が玄関に入って行くのを待ち、表札を確認した。
『上条』
やっぱり……。
前を歩いていた男子生徒は上条君だった。
どうしよう。上条君の家が派遣先に近い……。
慌てて表札の横にある番地を確認する。
派遣先と同じ番地だった。
近いんじゃない。上条君の家が派遣先なんだ……。
そういえば、指示書のメールに「上条様宅」って書いてあった。
上条君が学校の近くに住んでいるなんて思いもしなかったから、気にしていなかった。そのままUターンしてバス停へと急いだ。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
胸が
その後、どうやってバスに乗って家まで帰ったのか覚えていない。
家政婦の仕事はしないといけない。でも、派遣先は同級生の上条君の家。
無理だ。どうしよう。
考えがまとまらず、時間だけが過ぎていく。
いや、待って……。
上条君の家には『来栖』という名前の家政婦が来ると連絡がいっているはず。
そうだ、私が『天野美咲』と分からなければ良い。
変装よ変装。変装すれば良いじゃない!
ちゃんと考えれば、もっと良い方法があったのかも知れなかったけれど、その時のはそれしか思いつかなかった。
変装に使えそうな物を家中探して回ったけれど、余り使えそうなものは無かった。
慌てて近くのショッピングモールに行き、パーティーグッズ売り場を探した。
変装グッズは沢山あった。良い感じのウィッグもある。これなら大丈夫そう。
使えそうな物を
お金が無いわ……。
今の持ち合わせでは、とても買える金額では無かった。
結局、手に入ったのは売れ残り処分品のお化け屋敷グッズに、冗談みたいなヘンテコな眼鏡。それに面白メイク用のコスメだった。
アバヤを
顔がバレない様にメイクを
お化け用の黒髪おかっぱのカツラを被り、へんてこな眼鏡を装着。
鏡の前に立ってみる。
ナニコレ。変過ぎる。無理だわ……。
絶望感に打ちひしがれながら時計を見ると、もう十八時。既に遅刻。
これで行くしかない……。
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