うちの子
尾八原ジュージ
うちの子
墓地の近くに住み始めてから、私の周りを子供の幽霊がうろうろするようになった。肩まで髪を伸ばし、ピンク色のコートを着た小さな女の子で、顔がない。代わりに真っ暗な穴が空いている。
彼女は「おかあさんおかあさんおかあさん」と、昼でも夜でも気が向いたときに私の周りをぐるぐる回る。最初はうるさかったけれど、慣れてしまうとさほどでもない。むしろ結構かわいいと思っている。
だから今は誰とも一緒に住む気になれないというのに、両親は私に「結婚しろ」とうるさい。何度断ってもお見合い写真を持ってくるので、根負けした私は一度相手に会うと約束してしまった。
当日、待ち合わせ場所のホテルのロビーで相手の男性を見た瞬間、私はボーイミーツガールの気配を感じた。彼の足元に、青いジャンパーを着た男の子がくっついているのだ。顔がない。代わりに真っ黒な穴が空いている。
私の女の子はぐるぐる回るのをぴたっと止めた。男の子は男性の後ろに隠れつつも、ちらちらこちらを気にしている。
「あの、わかりますか?」
男性がおずおずと私に声をかけた。私は「わかります」と答えた。
私たちはすぐ一緒に暮らし始めた。顔のない子供たちは今、ダイニングテーブルの周りを仲良くぐるぐると回っている。うちの子が「おかあさん」一筋ではなくなったことが、私には少しだけ寂しい。
うちの子 尾八原ジュージ @zi-yon
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