第105話 「ポコとレイ」

「あんたが本当にこの子が好きだと言うのなら、この子をちゃんと受け入れないと駄目だよ」


「受け入れる……ですか」


「そうさ。キュバス達はね、愛しい相手をよろこばせるのが最高に幸せなんだよ。それが出来ないのは身を焦がす程の苦痛なのさ」


 チュオウノ国側の国境の城塞を陥落させ、今後の方針を決めている時でした。

 私がポコの事で心を痛めていると知ったエルフ族の方が、アヤセという人を連れて来てくれたのです。

 彼女はキュバスサロンのオーナーで、キュバスの事にとても詳しく、キュバス達を救う活動をしているという事でした。


 彼女はしばらくポコと話をして、ポコがキュバスの里を襲った卑劣な商人にさらわれて捨てられた事、あのセロリィにさせられた事、そしてポコの私への気持ちを教えてくれました。


「あんたが困ると言うのなら、私がこの子を引き取ってあげても良いよ。ちゃんと一生面倒見てあげるよ」


「嫌です! ポコと離れたくない!」


「なら、ちゃんと受け入れてあげないと可哀そうだよ」


「え、ええ……それは分かるのですが」


「何が気になるんだい?」


「その、あの、ポコの可愛らしさに罪悪感が……」


 アヤセさんは、そんな私を笑い飛ばしました。


「なあ、レイさん。先ずポコはあんたよりもずっと年上だよ。それとね、ひとつだけ大事な事を教えておくよ」


「ええ……」


「ポコは変化へんげ出来ないけれど、あの可愛らしい感じは、あんたの性癖を読み取りそれに合わせているんだよ。あれはあんたが望んでいる事さ……」


 私は慌てふためいて部屋に誰も居ない事を何度も確認しました。

 恐らく顔は真っ赤だったと思います。

 自分の心の奥底に隠していた、ポコに対する淫靡いんびな想いを言い当てられてしまったのです。

 モジモジと小さくなっている私に、アヤセさんが優しく声を掛けてくれました。


「だったら何も悩む必要はないだろう。お互いに相手の事をいとしいと思っているのだからね。こんなに素敵な事は無いよ。思いっきり愛し合えば良いのさ」


「はい……」


「それとね。どの位の効果が有るのかは分からないけれど、ポコの尻尾に『成長の印綬いんじゅ』を刻んでおいたよ。もし上手い具合に成長したら、ポコのモノも……」


「あ、アヤセさん!」


 アヤセさんはポコの頭を撫でると、笑いながら部屋を出て行きました。

 部屋には私とポコだけです。

  

「ポコ大好きだよ!」


「僕もレイが大好き!」


 私が大きく手を広げると、ポコが抱き付いて来ます。

 堪らなく可愛いです。

 思わずキスの雨を降らせてしまいました。


「ねえ、レイ。一緒にお風呂に入ろうよ!」


「ええっ? どうして?」


「レイが今そう思ったからだよ!」


 ポコを抱きしめてから、どんどん体が熱くなっています。

 もう何も誤魔化せません。

 ポコは出会った時から全てお見通しだったのです……。


 ――――


 その頃、チュオウノ国の南部では、ルンダーンを旗印にケーバブが率いる軍が圧倒的な強さを誇り、瞬く間に占領地域を広げていた。

 そして、王より指示されていた最も重要な目標を既に手中に収めていた。チュオウノ国南東部にある大きな港街を手に入れたのだ。


 この大陸は切り立った岸壁に囲まれており、港が作れる地形はとても貴重である。

 サンドランド国の南の果てに一応港町があるものの、王都からは砂漠を数ヶ月かけて渡らねばならず。他大陸との交易に力を入れたいサンドランド国としては、是が非でも欲しい港だったのだ。


 この大陸の東部にはトウホウ国という全く文化の違う神秘的な国がある。

 現在のチュオウノ国と陸続きではあるのだが、巨大な山脈によって遮られ陸路での行き来は不可能なのだ。

 これがトウホウ国において他国とは違う文化が育った理由でも有る。


 ノースランド国近辺の海は直ぐに凍り、セイホーウ国の西の果てにある港は大陸の真逆であり、サンドランド国に取りトウホウ国との交易が可能な港は、大陸内ではこの港しか無いと言って過言では無い。

 元々豊かであり、領土的野心があまり無いはずのサンドランド国だが、この交易が可能な港と緑豊かなチュオウノ国の南部地域が手に入る事に関しては躊躇ちゅうちょはしなかった。


 ケーバブ率いるサンドランド国軍は、チュオウノ国の王都を目指して北上を続け、

 ピッツア王率いるノースランド国軍も怒涛の勢いで南下している。

 チュオウノ国の領土は、日を追うごとに失われて続けていた……。

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