第98話 「藷所野包囲戦」
「シャルお婆様、大丈夫ですか」
「ひひひ。ちょっと疲れただけだよ。久しぶりの大魔法だったからねぇ」
異形の者達の
だが、シャル婆が召喚魔法を唱える姿を見守っていた魔法部隊の者達は無言のままだった。
皆腰が抜ける程驚いて居たのだ。これ程凄まじい魔法など、見た事も聞いた事も無い。
もちろんシャル婆を凄い魔導士だとは思っていたが、自分達に魔法を教えてくれている老婆が、まさかこれ程の大魔導士だとは思っていなかったのだ。
信じられないと言った面持ちで、偉大な大魔導士の後ろ姿を仰ぎ見ていた。
そんな中、シャル婆を抱きかかえているミントだけが悲しい顔をしていた。
「お婆ちゃん無理しないで。後は皆に任せて下がろうよ」
「ひひひ。ありがとうねミント。でも、大丈夫だよ。今は皆と一緒にここを守る時だよ」
「お婆ちゃん……」
「これで奴らもしばらくは手が出せないだろうしね。儂だってあんな大魔法を何度も唱えていたら死んじまうよ」
「そんなの嫌だよ。わたしお婆ちゃんにもっと……」
ミントは泣き出して言葉が出なくなり、言葉の代わりにシャル婆を強く抱きしめた。
シャル婆はミントの頭を優しく愛し気に撫でている。
「大丈夫だよミント。まだまだやり残した事がいっぱいさ。あんた達の子どもの面倒も見たいしねぇ」
シャル婆は少しだけ大きくなって来たミントのお腹に手を当てた。
ミントはターコスとの子どもを身ごもっているのだ。
「あんた達三人を守るためだったら何だってするさ。シャルロット大魔導士の名に懸けてね! ひひひ」
――――
「だから! たかだか一万程度の雑魚が死んだからって何が問題なの? こっちは何万居ると思っているの!」
セロリィ王妃が、状況を知らせに来た魔導士達を怒鳴りつけている。
折角のお茶の時間を邪魔された事で、余計に怒りが増している様だ。
「お前たちが言っている通りなら、馬鹿みたいに行進して行くからダメなんでしょう? 周りを取り囲んで一斉に攻め寄せなさいよ。近づけばその範囲魔法とかいうのは使えなくなるのでしょう」
「それにあんた達が一緒に進軍すれば、ある程度の魔法は防げるのでしょう。とっとと行きなさい!」
怒鳴りつけられた魔導士たちは首を
「セロリィ王妃。私が指揮して参ります」
セロリィ王妃の下座に控えていたルコラ王子が起ち上がった。
彼は楽勝と思われた藷所野の城塞の陥落を待って居る間に、セロリィにお茶に呼ばれていたのだ。
「トマトゥル王の偉業に一歩でも近づける様、せいぜい頑張りなさい」
セロリィが突き放すように言い放つ。
周囲に対しルコラとの関係を悟らせない様、慎重に行動をしているのだ。
彼女とルコラ王子との親密な関係を知る者はパクティ達だけである。
「はっ!
ルコラは身を
見送るセロリィが一瞬だけ不安げな表情を浮かべたが、直ぐにいつもの冷ややかな表情へと戻った。
――――
ルコラ王子は聡明で武人としても高い能力の持ち主であり、配下の兵士達の信頼も厚い。
彼は直ぐに軍議を行い、部隊を細かく再編し、それぞれの持ち場へと急がせた。
実はセロリィ王妃の言い放った事は、意外にも戦術的に正しかったのだ。
大魔法の的を絞らせ無いよう同時に多方面から攻め込み、被害を最小限度に抑え城壁に取り付きさえすれば、強力な範囲魔法は使えなくなる。
城壁を越えるのに多少の被害が出たとしても、彼らには十数万の兵が居る。
それに対する相手の兵数などたかが知れていた。力押しに押して一気に
大魔法で異形の巨人達の一部を失ったとしても、チュオウノ国軍は圧倒的に優位な状況であった。
しばらくして、ルコラ王子の指揮の下に藷所野への広範囲にわたる包囲戦が始まった。
藷所野側から最も見通しの良い方向からの進軍は、横並びになった騎兵による
その間に別動隊が藷所野の丘の裏手となる切り立った断崖に取り付き、異形の巨人達が崖をよじ登っていた。
崖側からの侵攻は無いと思っていた藷所野軍が、慌てて弓矢や
藷所野軍が必死に反撃を試みる中、藷所野はいつの間にか十数万の敵兵に囲まれ、徐々に厳しい状況へと追い込まれていた……。
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