第97話 「シャルロット大魔導士」
私達は三日三晩走り続けています。
正確には荷馬車を
立ち寄った街で、藷所野の街にチュオウノ国の軍勢が迫っているという情報を聞いて、取るものも取り敢えず街を出発したのでした。
ドワーフ族の皆さんにはゆっくりで良いと伝えたのですが、誰一人として納得ぜず、全員が遅れずに付いて来ています。
到着と同時に戦いに巻き込まれる可能性が有る事を伝えると、手の空いたものは皆、武器や装備の手入れを始めました。
ドワーフ族は美しい造作をするだけではなく、皆一流の戦士なのです。
「レイ王の為に戦えるなど、我が一族の誉れじゃ!」
ドワーフ族が壁の中に引き
ですが、出来る事であれば彼らを戦いに巻き込みたくはありません。
チュオウノ国が途中で考えを変えて、穏やかに引き返してくれないのでしょうか……。
そんな弱気な気持ちを抱えながら、皆の無事を祈り藷所野への道を急いでいます。
――――
完全武装した巨人族や、血の付いたままの
いつものように、人族の部隊はその後方に留まったまま動かず、異形の者達が城壁を越え
迫りくる異形の巨人達の迫力は凄まじく、彼らが大地を踏みしめる振動で城壁が揺れている。
その迫りくる姿を、城壁の上に立つフードを目深に被った老婆が見据えていた。
「ひひひ。モンスター共に頼り切って人は高みの見物かい。チュオウノ国の騎士道も地に落ちたもんだねぇ」
「しゃ、シャル婆。逃げなくて大丈夫なの?」
老婆に付き添っている娘が、迫りくる脅威に圧倒され震える声で語り掛けている。
「ひひひ。ミント怖いかい?」
「べ、別に怖くは無いけど、シャル婆が皆の邪魔になるといけないと思ってさ」
「そうかいそうかい。まあ少し離れて見ておいで」
「うん……」
シャル婆に
本当は間近に迫った死を避けたくて、三人で逃げ出したい気持ちでいたのだ。
「ミント。シャルお婆様なら、きっと大丈夫だ」
不安そうなミントをターコスがしっかりと抱き締めた。
「まあ、人族が居ないと言うのは有難い事だけれどね。流石に世話になった国の兵士を
シャル婆はレイ達が出発前に作ってくれた杖を体の前で構え、巨大なオーブを異形の者達へと向ける。
後ろには藷所野ファミリアの魔法部隊が居並び、固唾を飲んで事の成り行きを見守っていた。
「皆、良いかい。いつもの様に念を込める魔法以外に、
シャル婆がいつもの講義の時の様な優しい口調で魔法部隊の者に声を掛ける。
危機が差し迫る中、何とも緊張感の無い話ぶりに張り詰めた雰囲気が少し
その直後、シャル婆が一歩前へと踏み出し顔を上げた。
「
シャル婆が杖を天に掲げ、老婆とは思えぬ声を張り上げた……。
――――
遠目に藷所野を見渡せる丘の上に布陣し、異形の巨人達の進軍を眺めていた兵士達の目の前でそれは起こった。
そして次の瞬間、暴風雨と巨大な竜巻が幾重にも巻き起こり巨人達を軽々と舞い上げた。
巨人達が空に舞い上がるや否や、目の
巨人達が地面に叩きつけられるかと思った
信じられない出来事だった。
目の前を地響きを上げながら進軍していた一万余の異形の巨人達の姿が、一瞬で消え去ってしまったのだ。
兵達は皆、何が起こったのか分からず
そんな中、力の有る魔導士達が一斉に顔を見合わせ、セロリィ王妃達がくつろいでいる天幕へと駆けて行った。
尋常ではない力を持つ魔導士が藷所野側に居る事を知らせるために……。
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