第96話 「セロリィ王妃の誤算」

「うふふ。ポコちゃん、今日も上手だったわよ」


 裸のセロリィがポコの唇を吸いながら舌を絡めた。

 絶頂の余韻でまだ足が震えているポコも、濃厚な口づけを上手に受け止めている。

 セロリィのポコへの調教は完成された物になっていた。

 彼女はポコのインキュバスの本能を利用し、自分を喜ばせる事を徹底的に教え込み日々悦楽に浸っている。

 ポコはその全てが大好きなレイの役に立つと信じて、ひたすらセロリィの欲する事に従い続け、セロリィが与えてくれる快楽に身を任せていた……。


「セロリィ様、少し宜しいでしょうか?」


 浴室の外からパクティの声がする。

 セロリィ王妃はポコを残したまま浴室を後にした。


藷所野しょじょのと呼ばれている城塞都市の攻略が進まず、増援の依頼が届いております」


「藷所野? 変な名前ね」


「はあ、何でも甘藷かんしょの産地らしいです」


「甘藷? 何でそんな片田舎の攻略に手間取っているの?」


「街の冒険者ファミリアがオーガ族を手なずけているらしく、苦戦している様です」


「とっとと増援でも何でもして、皆殺しにしてしまいなさい!」


「はい」


「……ねえ、藷所野って言ったの?」


 声を掛けられセロリィが振り向くと、ポコが浴室から顔を出していた。


「うん? ポコちゃんどうしたの」


 険しい顔をしていたセロリィが急にほがらかになり、ポコの前へとしゃがみ込む。

 目の前に裸のままのセロリィの下腹部が露わになり、ポコは反射的にそこに手を伸ばした。セロリィに教え込まれ身に付いてしまった行動だ。


「もしかして、藷所野って言った? 僕とレイはそこに居たんだよ!」


 ポコはセロリィをまさぐりながら目を輝かせている。

 セロリィは何か思い付いたのか、ポコに口づけをして急に笑顔になった。


「そうなのね。ポコちゃんとレイちゃんの大事な街を怖い人達が襲っているんだって! お姉さん達が街を助けに行ってくるわね」


「ええっ、本当に! だったら、僕も付いて行く!」


「ううん。ポコちゃんは危ないから付いて来てはダメよ。ポコちゃんが怪我でもしたら、お姉さん親友のレイちゃんに怒られちゃうから」


 セロリィがポコを優しく抱きしめながら、口の端を吊り上がらせた。

 ポコを浴室に戻すと、パクティに耳打ちをする。


「……万が一、レイ達が生き残っているとしたら、殺してあげないといけないわね。楽しそうだから私も行くわ……」


「承知しました。では、我々も準備致します」


 一礼して部屋から立ち去るパクティを見送ると、セロリィは裸のまま浴室へと戻って行った。彼女の顔はいつも以上に上気している。

 従順で可愛らしいポコの“大切な物を奪う”という事に堪らない興奮を覚えているのだ。

 開いた足の間には、再び彼女の下腹部をまさぐり続ける天使の様な顔が覗いている。

 セロリィは人を疑う事を知らないこの哀れな生き物が、何も知らずに必死に奉仕を続ける事に身が震えるほどの悦楽を感じていた……。


 ――――


 セロリィ王妃は増援の部隊と共に藷所野へと移動している。一行はさほどの時を置かずに藷所野へと辿り着く予定だ。

 その頃、ピマンだけが国境の城塞に残されていた。

 セロリィの指示で、国王となったトマトゥルを衰弱死させる為の監視役をしているだ。

 当初の計画では、サキュバスが変化したセロリィ王妃を抱き続けて衰弱死させる予定であったが、そうすると王を色狂いにさせたきさきとして、事後のセロリィ王妃に対する風聞ふうぶんが良くないと言う事で、別の方法をあてがう事にしたのだ。


 そもそもトマトゥル王自身が望んだ事ではあるが、王として様々な女に子を産ませたいと、自分が気に入っている女を寝室に呼ぶようにと言い出したのだ。

 最初にその報告を聞いてセロリィは失笑した。


「色狂いの豚野郎が、とっとと死んでしまえばいいわ。ピマンに後は任せるわね」


 セロリィは嫉妬で腹を立てたていに見せかけ、セイホーウ国の中央部付近の城塞へと移動したのだった。

 彼女の配下である大部隊が駐屯している城塞で、今回の増援もここから出発している。

 これでトマトゥルが衰弱死したとしても、彼女へ疑いの目が向く事は無い。

 後はピマンが上手にトマトゥルをほおむってくれるだろう……。




 トマトゥル王はピマンに上手に騙され、抱きたかった女が抱ける日々に溺れていた。

 だが、実はこの時セロリィが思いもしない事態が起こっていたのだ。

 王が衰弱死する前に王の子を身ごもり、第二夫人の座、いや場合によっては国母の座を狙う者が居たのだ。

 セロリィ女王に代わり常に国王の傍に仕え、その精を受ける事が出来る存在……。

 実はピマンが常に王の寝室にサキュバスと共にこもり、サキュバスを上手に利用しながらトマトゥル王に抱かれ、己の身に精を受け続けていたのだ。


 そして、抱かれる回数が増えるに連れて、ピマンは意外に優しいトマトゥル王に愛情の様な物を感じ始めていた。

 このピマンの思わぬ裏切りで、セロリィ王妃の計画に誤算が生じ、これが後に奇妙な結果を招く事になったのである。

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