栄華と屈辱の行きつく先に
藷所野の大戦
第95話 「第一次大陸戦役」
セロリィが起こしたこの戦乱は、後世において「第一次大陸戦役」と呼ばれている。
その転換点と云われるのが「
セイホーウ国とチュオウノ国との最大の武力衝突の序盤戦は、藷所野側の遊撃戦で始まった……。
チュオウノ国の脅威が差し迫る中、徐々に伝わる情報から
そもそも、領主の持つ兵は五千しかおらず、王や近隣の領主から援軍が来ない限り、藷所野ファミリアに参集したオーガ族の方が、人数も戦力も勝っている状況だったのだ。
藷所野ファミリアのメンバーは、敵が進軍してくると予想される土地に様々な罠を幾重にも仕掛け、ハナがリーダーになった事により統率が取れるようになったオーガ族が、周囲の野山に潜み先制攻撃の隙を行っていたのである。
チュオウノ国側は、異形の巨人達とそれを指揮するオーク族の魔獣使い達を先行させている。
ひたすら破壊と
敵方からの反撃が有ろうとも使い捨ての駒の様に先行させ、危険を全て引き受けさせた。
後方から戦況を見守るだけの人族の者達は、異形の巨人やオーク族の者達をその程度の存在としか思っていない。
この大軍の頂点に立つセロリィ王妃自体が、彼らを下等な生物としか扱わない事が、下の者達の意識にも浸透してしまっているのだ。
そして彼らの思惑通り、藷所野へと進軍する中、先ずは異形の者達が多くの犠牲を払う事になった。
屈強で真正面からの戦いを好むオーガ族の攻撃は、意外にも
従来の彼らの戦い方は、ひたすら正面から戦いを挑み、死をも恐れずに戦い続けると言ったものであったが、ハナというリーダーを得た事によって統率が取れるようになっていた。
そして彼らは『無茶をして死んではいけない』という事を、ハナから厳に
藷所野へと向かうチュオウノ国軍は各所で混乱をきたしていた。
突如現れた泥沼に足を取られ、動きが鈍った途端に頭上に炎が降り注ぎ、落とし穴に落下するや否や、地中から湧き出す溶岩に飲み込まれるといった罠により進軍を阻まれる。
そしてその隙に乗じ、茂みや物陰から現れた屈強なオーガ族の戦士達によって、異形の巨人達は次々と打ち倒されていた。
特に効果的だったのが、オーガ族の者達は大型の異形の者達では無く、彼らを使役しているオーク族の魔獣使いを狙った事であった。
彼らの数が減るに連れて、異形の巨人達の統率は乱れ、時には同士討ちを始めてしまう者すら現れた。
オーク族の魔獣使いは、異形の者達を大人しく留める事だけで精一杯になり、進軍などおぼつかなくなってしまったのだ。
その為、魔獣使いが後方の部隊から補充されるまで進軍は停滞してしまい、チュオウノ国の進軍スピードは完全に鈍化してしまう。
さらに、神出鬼没のオーガ族の攻撃により、人族の部隊にまで被害が及ぶようになると、幅広く
この遊撃戦術のお陰で、チュオウノ国側の藷所野付近への布陣には、予定よりも
――――
進軍するチュオウノ国の脅威が徐々に差し迫る中、藷所野では恐慌に陥ることもなく防戦の準備が着々と進んでいた。
切り立った二つの丘を利用して街や城が作られているこの地は、城塞都市の外側に広がる広大な甘藷畑の影響で、最近は「藷所野の街」と呼ばれているが、元々は「二つ丘城塞」と呼ばれていた。
地形に恵まれたこの城塞は防衛戦には適しており、更にレイ達が
二つ丘城塞の領主は、
藷所野ファミリアに素直に応援を求め、防衛戦の指揮を
更に、指示に混乱を招かない様に「二つ丘城塞」の名を改め、今後「藷所野の街」と呼ぶ様に通達した。
何気ない事の様であるが、この改名が兵とファミリアメンバーと住民達との間に一体感を呼び、藷所野の防衛を更に強固にしたと言われている。
現にファミリアリーダーのレイやシズなどの幹部の多くが不在で有りながら、藷所野ファミリアの中からこの防衛戦の指揮を執る者が現れたのである。
その者は皆から先生と慕われ、驚くほど戦略や戦術の知識を有していたのだ。
青年と娘に支えられながら、ローブのフードを目深に被った老婆がチュオウノ国の軍勢を一望できる城壁の上に立っている。
その眼差しの先に、遂に藷所野へと進軍を始めた異形の巨人達の姿が見え始めてた……。
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