第94話 「異形達の進軍」
崩れ落ちた城壁と焼けた建物の周りに、大勢の
通常の城塞戦であれば、城塞の外堀や城壁の外に、攻め手側の兵も大勢倒れているのが常だが、この城塞戦ではその姿は見当たらない。
異形の巨人達による攻城戦は一方的だった。
人であればなかなか越えられない城壁も、巨人達が三体でも重なれば容易に超えられる。
巨人が少数であれば、それを討ち取りさえすれば容易に城壁を破られる事はないのだが、見渡す限りの巨人の波に
城の城壁は簡単に破られ、内部に巨人達がなだれ込む。
異形の巨人達は、武装した兵と街に住む住民とを区別出来ない。目に見える人々を全て敵とみなし、容赦なく打ち倒し
チュオウノ国は、この異形の巨人達の軍勢のお陰で、時間の掛かる攻城戦を一方的な殺戮により次々と終わらせ、セイホーウ国の中央部へと一気に駒を進めている。
その勢いは留まる事を知らなかった……。
――――
同じ頃、
チュオウノ国の軍勢が徐々に近づいていると言う情報が流れて来たからだ。
戦災を恐れる住民達の一部は、既に南部や西部に向けて避難を始めている。
その流れとは逆に多くの武装したオーガ達が各地から集まり始め、日に日にその数を増していた。
藷所野ファミリアの新たなメンバー達は、街の防備の強化に加え、オーガ達の武装の生産や改良を行っている。
シャル婆による魔法部隊の訓練にも熱が入っていた。
キコ夫妻を始め藷所野ファミリアに関わる人々は、誰一人として避難していない。
皆、レイ達が戻る事を信じて、この藷所野の街を守る事に全力を注いでいるのだ。
そんな中、集まったオーガ達の間で
屈強な戦士達が集まって来てはいるのだが、ひとつの部族では無い彼らにはリーダーが居なかった。
居ないと言うより他の部族の者が上に立つことを許さなかったのだ。
一応、ガイとボンが中心となってはいるが、組織的な行動を命じる事は不可能で、この状態で防衛戦を共に戦うのは困難な事が予想された。
そこで事態を重く見たドンが一計を案じた。
我こそはと思う者が戦い、最も強い者を選出し、その者に皆が従うと言う提案をしたのだ。
この案に武闘派のオーガ達は狂喜した。最も公平な方法で皆が付き従うリーダーを決めるのだ。
各部族の代表や腕自慢が立候補し、百名を超える
屈強なオーガ達による凄まじい対戦が行われ、遂に最も強い者が選ばれた。
その者は一度も攻撃を身に受ける事も無く、圧倒的な強さで他のオーガ達を退けたのだ。
その者の参加に対し文句を言う者も居たが、その様な者達も全て実力で退けたのである。
オーガ族を率いるリーダーが決まり、藷所野の修練場に全てのオーガ族が集められた。その数は既に五千を超えている。
集まったオーガ達の前にリーダーとなった者が現れた。
巨大な
そしてその肩の上に、白いコートの様な装備を身に着けた者が起ち上がった。
屈強なオーガ族から
「みんな! 集まってくれてありがとうにゃ! 宜しく頼むにゃ!」
レイピアを頭上に掲げ、ハナがオーガ達に声を掛けた。
ガイとボン達の部族の代表として彼らはハナを推薦し、オーガ族は誰も彼女に勝てなかったのだ。
そしてボンが最も標準的なオーガ語で叫んだ。
≪我らがオーガ族の王! ハナ!≫
オーガ族の者達も口々に叫んでいる。
≪我らが王! ハナ王!≫
「にゃ!」
ハナが叫ぶと、野太い掛け声の合唱が藷所野の街に響き渡った。
「「「にゃ!」」」
後世の言語学者達の頭を悩ませるセイホーウ国内に於けるオーガ族の掛け声の語尾に付く「にゃ」の由来は、実はこの戦乱の中で生まれたもので有る。
この事についての最も詳細な記述が確認できるのは、藷所野の街で書かれた前述の著書『伝記:偉大なるシャルロット大魔導士』で有る事を附しておきたい。
――――
しばらくして、藷所野の街に衝撃的な知らせが届いた。
最も近くにある城塞都市が陥落したという事と、逃げ遅れた者は全て惨殺されたと言う情報が伝わって来たのだ。
今しばらくの時間は有ると思われるが、次に狙われるのは恐らくこの城塞都市になるだろう。
セイホーウ国の中央部よりやや南に位置する藷所野の街は、立地条件も良く、チュオウノ国の拠点として確実に手に入れておきたい城塞都市のひとつなのだ。
藷所野の街に刻一刻とチュオウノ国の軍勢が迫っている。兵士は次々と増員され、その数は優に十万を越えていた。
時を同じくして、ドワーフ族を率いるレイ、黒衣騎士団を引き連れたサキ、妖精達と共に歩みを進めているシズ、そしてエルフ族と共に姿を現したベニ。皆が一斉に藷所野を目指している。
セイホーウ国史に残る最大規模の戦いが始まろうとしていた。
果たして彼女達の再会の望みは叶うのか、そして藷所野の街の人々の命は……。
【 王位を継ぐ者達 】 終了
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