第61話 「沸き立つドワーフ族」

 いつもと同じ様に制作作業をしていると、ドワーフの皆さんが周りに集まり、私の手元を固唾を飲んで見守っています。


「お、おい、あんた。そのつち……」


 実はドワーフの皆さんは、私の作業ではなく、手に持っている鎚の方を食い入る様に見つめていたのです。


「そう言えば、この鎚は上装備の内側に収納していたから、初めてお見せしますね」


「あ、あんた。そ、それは、も、もしかして、あ、アマツマラの鎚じゃないのかい?」


「え? ええ、そう言えばそうです。私の大切な鍛冶道具です」


 答えた途端に、ドワーフ達は転げまわるように騒ぎ始めました。

 その場で泣き出す者、誰かに知らせる為なのか急いで走り去って行く者、腰を抜かして座り込む者など、大変な騒ぎになっています。


「急いで一族の者を集めよ!」


 皆が口々にそう叫んでいます。

 何が起こったのかさっぱり分かりませんが、何やら大変な事が起こった様です。


「あ、あの。ミコ様かレイ様か……どちらでお呼びしたら良いのか分かりませんが、何卒、街の方へお越しください」


 今まで私の面倒を見てくれていたドワーフが、震えるようにかしこまりながら、私の手を引きます。


 どうして大騒ぎをしているのか分かりませんが、何だか大変な事態が起きた様なので、うながされるまま、洞窟を後にして街へと向かいました。


 ――――


 巨大で荘厳そうごんな扉が開かれる。この建物の扉が開かれるのは、恐らく数世代振りであろう。

 街の最奥に有るこの建物は、ドワーフ族の持つ技巧ぎこうすいを集めて作られている。


 街の者が全員入るのではないかと思われる程の巨大な広間があり、見上げる程の高さの天井と、それを支える美しい装飾が施された柱が幾本も立っている。

 舞い上がるほこりを苦にもせず、大勢のドワーフ族の者が一斉に掃除を始めた。

 彼らは一様に嬉しそうで、これから起こる事に胸を躍らせていた……。


 その頃、街の宿屋で一番豪華な部屋に案内されたレイは困惑していた。

 周りのドワーフ達はかしこまるばかりで、誰も何も教えてくれないのだ。




「あのー」


「は、はい。何でしょう」


 ふくよかな女性のドワーフが畏まりながら寄って来ました。

 いつも溌溂はつらつとして、元気の良いドワーフ族の雰囲気ではありません。


「私には行かないといけない所が……」


「ああ! お待ち下さい。私がひとりでお聞きするわけには参りません。皆の、皆の前でお言葉を!」


 ここに着いてから、何度も繰り返されている会話。

 私は一刻も早く藷所野しょじょのに戻り、皆の安否を知りたいのですが、殆ど話をさせて貰えません。


 『アマツマラの鎚』を見てからというもの、ドワーフ族の皆さんの様子が何か変なのです。

 街中が騒然としていて、大通りを大慌てで駆けて行く者が後を絶ちません。

 それに、どうやら街の外からも大勢のドワーフ達が集まって来ている様です。

 もしかしたら『アマツマラ祭り』でも始まるのでしょうか?


 街の喧騒けんそうは夜中になっても治まりませんでした。

 大勢のドワーフ達が、次々にこの街に集まって来ている様です。

 街中のお店も今日は大繁盛の様で、夜明けまで陽気なドワーフ達の歌声や、大きな話し声が聞こえて来ていました。

 本当に何が起こったのでしょう……。

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