第60話 「ラッキーチャーム」

 ”コンコンコン”というつちで鉄を軽く打つ音が聞こえている。

 白いワンピースの様な衣装を着た娘が、鍋の様な物を鎚で打っていた。


 娘の周りには、たるの様な体格をし、顔に豊かなひげを蓄えた男達が同じように鎚を使いながら、様々な物を作っている。

 男達の背はそれ程高くないが、たくましい体躯たいくをしている者が多い。


「おーい、ミコ! 次はこれをやってくれ!」


「はーい」


 娘は元気良く答えると、次に渡された壺の様な物を叩き始めた。


 娘がこの巨大な地下洞窟で拾われてから半年が経っている。

 大怪我をして意識の無かった娘は、この洞窟を作業場にしている者達に救われたのだ。

 意識を取り戻した娘は、ミコと名乗っただけで他の事は殆ど覚えていなかった。

 ただ、彼女の傍に落ちていた武器の様な長鎚ながつちが男達を驚かせた。希少なオレリル鋼で出来ていたからだ。

 娘にその事を聞いても、それが何故傍にあったのか覚えてはいなかった。


 娘はどうやら鍛冶かじの経験があり、この種族が得意とする『クラフト』の能力を持っている様だった。

 そして、娘は元気になると、男達の作業を手伝いたいと言い出し、作業をやらせてみると、腕は確かで役に立ちそうだった。

 それから、娘は巨大な地下洞窟の作業場で働き始めたのだ。


「なあ、ミコ。お前の『クラフト』の腕は、儂らドワーフ族よりも上かも知れないな」


「ええ、本当に? そう言って貰えると嬉しいわ!」


 娘はドワーフ族の男達と共に、鍛冶や様々な物のクラフトを行いながら、この街で楽しく平穏な日々を過ごしていた……。




 そんなある日、白いコートの様な物が娘の元に届けられた。


「これはお前の服じゃないか? 着ている服と同じ素材で、柄も同じだぞ」


「あら本当ね」


「お前が倒れていた場所の、かなり上層階で尖った岩にぶら下がっていたそうだ」


「そうなのね。じゃあ、着てみる……。まあ、ピッタリ! やっぱり私の服なのかしら?」


「おお、どう見ても、そのワンピースとおそろいの服だな。お前は一度その岩に引っかかって落ちて来たんじゃないのか?」


「なるほど、そうかもね。あら、これは何かしら」


 娘がコートの内側に付けてあった編み込んだチャームを手にした。

 その瞬間、娘の脳裏に様々な記憶が流れ込んで来た……。


 ――――


「あの……」


「どうしたミコ? しばらく変だったぞ」


「申し訳ありません。私の名前はレイです」


「何だそりゃ? 何か思い出したのか?」


 私は静かにうなずきました。シャルお婆様とミントさんから頂いた、ラッキーチャームを触った瞬間に、全ての記憶が戻ったのです。

 皆の事、藷所野しょじょのの事、意識を失う直前の事。

 ここで助けられて生活をする様になってから、既に半年の時が過ぎています。皆は無事だったのでしょうか。

 私以外には、このドワーフの巨大な洞窟で誰も見つかっていません。皆が無事に生きている事を願いました。


 私が記憶を取り戻したことで、周りのドワーフ達から祝福され、しばらく色々な事を聞かれました。

 問い掛けに答えてはいましたが、私は皆の事が気になり、それどころではありません。

 急いで藷所野に戻り、皆とポコの無事を確かめたいと思っていたのです。

 だからと言って、作業を途中で投げ出す訳にはいかないので、クラフト中の美しい装飾品を仕上げる事にしました。

 コートようの装備からつちを取り出し、クラフトを始めます。


「おい……」


 いつもと同じ様に作業をしていたのですが、ドワーフの皆さんが周りに集まり、私の手元の動きを、固唾かたずを飲んで見守っています。どうしたのでしょう。


「お、おい、あんた。そのつち……」

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