王位を継ぐ者達

叶わぬ再会

第57話 「妖精の国」

「……シズ……シズ……シズ起きて! ねえ、起きて……」


 赤い巨大な花弁の上に、白いコートの様な衣装をまとった娘が倒れている。

 その娘の周りに羽を持つ者達が集まり。不思議そうに覗き込んだり、驚いた様にはしゃぎながら飛び回っていた。

 様々な容姿をしているが、全てこの森に住む妖精達だ。


「ウフフ。この人は誰?」


「アハハ。誰?」


「フフフ。私も知らないわ。つついて見る?」


 色とりどりの妖精達が、娘を指で突こうとした。


「こら! やめろ!」


 先程から娘の体を揺さ振りながら、声を掛けていた妖精が声を上げた。


「キャッ! ペロ様が怒ったわ」


「ウフフ。ペロ様は短気ね!」


うるさいなぁ。今から治癒ちゆを掛けるから、皆も手伝って」


 妖精のペロが娘に向かって手をかざすと、他の妖精達もそれにならい周りを囲みながら手をかざし始めた。

 妖精達の掌から輝く精霊が飛び出し、次々と娘の体に入って行く。

 多くの精霊が飛び交い娘の体が光に包まれると、娘はうっすらと目を開けた。


 ――――


「ここは美しい場所ね」


 巨大な花弁に腰掛けながら、シズは目の前に広がる景色に見惚みとれていた。

 見たこともない巨大な木々が生い茂り、自分の背丈よりも大きな花が咲き乱れ、遠くに見える美しい湖には夕日が反射して輝いている。

 視界に入る全てが多彩で、同じ色を見付ける事が難しい程だ。


「ねえペロ。ここは何処なの? 私、死んだのかしら?」


「フフ。ここはね。僕の故郷。妖精の国だよ」


「妖精の国? そんな素敵な場所が有るの?」


「うん。普段は見る事も訪れる事も出来ないけれど、有るんだよ」


「私は死んで妖精になったのかしら」


「うーん。花弁を何枚も突き破って落ちて来たから、多分違うと思うよ」


 ペロが指さす方を見上げると、花弁が大きく破れた花が連なっていて。そこかしこから沢山の妖精たちが自分達をのぞき込んでいた。


「あら、あれは私が破ったのかしら。それと皆さんはペロのお友達?」


「うん。みんな仲間だよ」


 シズが手を振ると、妖精達はキャッキャと騒ぎながら手を振り返してきた。


「ねえペロ。私達はどうしてここに居るのかしら。皆もこの辺に落ちて来たのかしらね」


「分からないよ。でも、僕ら以外には誰も落ちて来ていないみたいだし。他の人達が何処に行ったのかは分からない」


「そう……。早く藷所野しょじょのに知らせて、皆を探さないといけないわね」


「でも、直ぐには無理だと思うよ。見えざる道が現れた時にしか、ここから出られないから」


「なあに、その見えざる道って」


「妖精の国との間にある障壁しょうへきの様な物だよ」


「ふーん、そうなのね。でも、どのくらい待てばいいの?」


「早くても一年は待つと思う」


「えっ、そんなに! どうし……」


「ペロ様ー!」


 詳しく話を聴こうとした途端。集まって来ていた妖精達が一斉に話し始め、シズの言葉は遮られた。


「ペロ様! お戻りになられたのですか!」


「ペロ様! お会いしたかったです!」


「ペロ様」「ペロ様!」「ペロ様……」


 ペロとシズの周りは、いつの間にか妖精だらけになってしまっていた。


「ねえねえ、皆が待っているよ。早く太古のマナの木に行きましょうよ」


「行こう!」


「アハハ、早く早くー」


「ウフフ!」


 皆がシズとペロの手を引き、何処かへ連れて行こうとしている。

 シズはどうして良いのか分からなかったが、ペロの後を付いて行く事にした。

 花弁の端に来ると、ペロはそのまま飛び立ち。羽の無いシズの周りには、妖精達が集まり彼女を掴む。

 シズの体がふわりと宙に舞い、そのまま妖精の国の空を飛び始めた。


「何て美しい……」


 眼下に見える妖精の国は、いろどりあふれている。

 日が沈み、暗くなって来た森や平原には、様々な光が溢れ始めていた。

 木々や草花だけではなく、そこにいる生き物達が、体の内部を透かすかの様に発光しているのだ。


 夜空に星が見え始めた頃。

 様々な彩の光がまたたく、ひときわ大きな木が見えて来た。

 ペロがシズを振り返り、その大きな木を指さしている。

 何だか楽しそうなペロと、妖精達に抱えられたシズの姿が、美しく瞬く『太古のマナの木』の茂みへと消えて行った。

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