第56話 「新たな枠組みへ」

 トマトゥル王子は無血で国境の城を落とした。

 彼はチュオウノ国の建国以来、初めてセイホーウ国への侵攻を果たし、その版図はんとを広げた者になったのだ。

 この絶大な功績は、トマトゥル王子の国内での立場を飛躍的に向上させ、他の二人の王子を抑え、次期国王となる王太子への道を大きく開く事になるだろう。


 そして、国境の城をチュオウノ国が落とした事により。高い山脈に囲まれ、お互いに狭い国境を守る事によって保たれてきた両国のバランスは、大きく崩れてしまう事になる。

 しかもこの領主城と城下町は、セロリィ王子妃とレーバー君の策略通り、レイ達により所属していたセイホーウ国に向けて城壁が幾重にも張り巡らされている。

 これから先、チュオウノ国側がセイホーウ国領に侵攻し、更に版図を広げるのは誰の目にも明らかであった。

 長きに渡り平和的に均衡を保ってきた国々の枠組みが変わろうとしていた。

 この事はチュオウノ国とセイホーウ国のみならず、ノースランド国やサンドランド国も巻き込む事態へと発展してゆく。


 ――――


「セロリィ様。このインキュバスの幼生は、レイと一緒にいた様です」


 インキュバスの幼生ポコは、レイ達の泊まっていた宿屋で発見され。パクティ達によって、セロリィの寝所へと連れて来られていた。


「レイ? 誰だっけ」


「あの、奴隷どれいのレイですよ」


「ああ、そんな奴が居たわね。で、レイは?」


「どうやら、生き延びて冒険者として腕を上げていた様です。まあ、レーバー君によって、何処か遠くの遥か上空へと飛ばされましたが」


 パクティが首に向けた親指を横に動かし、処刑を意味するジェスチャーをして見せた。


「そう。反抗勢力用に送っておいた強制転移スクロールが役に立ったようね」


「ええ、彼女達を含めて、邪魔な者は全て消え去って貰いましたよ」


「ふふふ。いい気味ね」


 二人で話している間にポコが割って入った。レイの名前が出た事が気になった様だ。


「ねえ。あなたはレイの知り合い?」


「うん?」


「レイの知り合い?」


 セロリィは始めて見るインキュバスの幼生に可愛らしさを感じていた。感じると共に興味が湧いたのだ。


「ええ、お姉さんはレイのお友達よ」


「そうなんだ! 僕はポコ。レイとずっと一緒に居たんだ。レイは何処?」


「そうなのね。レイちゃんはね、怖い人に何処かに飛ばされちゃったんだって」


「ええー。そんな……」


「ポコちゃんはレイちゃんが心配?」


「うん。僕はレイの事が大好き!」


「そっかー。じゃあ、お姉さんが必ず探し出してあげるからね。それまでお姉さんと一緒に居ようか?」


「うん! 貴方のお名前は?」


「セロリィよ。レイのお友達のセロリィ。ポコちゃん宜しくね」


「うん!」


 セロリィが笑顔で手を広げ、ポコをそっと抱きしめた。

 パクティ達と目が合うと、セロリィの口の端がつり上がる。


 今の彼女の勢いを止められる者は、何処にもいない。

 彼女は卑劣ひれつ狡猾こうかつな策を弄しながら、着実に栄華への道を歩んでいる。


 そして、レイ達の姿は何処にも無い……。




【生き延びた者と栄華を掴む者】 終了 



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 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


【生き延びた者と栄華を掴む者】の章が終了しました。



 消えたレイ達の運命は、そして卑劣なセロリィ嬢の栄華の道は……。


 この続きが読みたい! と思って頂けたら幸いです。


 感想やコメントを頂けると、とても嬉しいです。


 お待ちしておりまーす!


 磨糠まぬか 羽丹王はにお

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