第54話 「狡猾なセロリィ王子妃 Ⅱ」

 セロリィ王子妃がオークの姫を起こすよううながし。ピマンが治癒ちゆ魔法をほどこすと、意識が無かったオークの姫が目覚めた。

 意識が戻るや否や、姫は自分の下半身を確かめる。

 今日ははずかしめを受けていない事が分かると、おもむろにセロリィをにらみつけた。


「あらあら、今日はボブゴブリンと繋がっていなくて寂しかったのかしら?」


 いつの間にか人族の言葉が理解出来るようになったのか、姫は溜息ためいきをつき、そっぽを向いてしまった。


「しばらくしたら、貴方の大事な王子様が到着するわよ。そしたら、今日は久しぶりに二人きりで楽しませてあげる。感謝なさい」


 姫がまたセロリィを睨みつける。


「あら、ご不満? あれだったら、あんたが咥え込んだホブゴブリンや他の亜人族の者達も一緒のお部屋にしてあげましょうか。王子の前で皆で楽しむ?」


「……」


 悔しそうな表情をするオークの姫を見て、セロリィ王子妃が高笑いをした。


「困るわよねぇ? 貴方が裏切らない限り、私達もその事は内緒にしておいてあげるわよ」


「さあさあ、豚姫様。お返事は?」


 姫に散々はずかしめを受けさせてきたパクティが、姫のあごを持ち答えを迫る。

 姫は目を伏せて、あきらめた様にうなずいた。


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 オーク族の王子が、部族の者を説得する為に出発するや否や、王子との約束は簡単に破られ、姫はありとあらゆる辱めを受けたのだ。

 気が付くと、いつも他種族の亜人や醜悪なゴブリンやホブゴブリンに腰を振っていた。その回数はセロリィ達に捕まってからの日数よりも遥かに多い。


 姫にとって一番厄介やっかいだったのが、人族に奴隷どれいとして飼われていたオーク族の者達が、セロリィ達に買い取られて来たことだった。彼らはオーク語と人語が話せるのだ。

 セロリィは、直ぐに彼らに姫を与えた。

 人族にはあまり分からないが、姫はオーク族の中では、最も美しいと言われる程の美貌びぼうの持ち主なのだ。

 美しく高貴な姫を抱けることは、奴隷になる様な下賤げせんの者である彼らにとっては至上の喜びだった。


 そのような褒美ほうびを与えられた彼らは、セロリィ達に心酔し、完全に彼女達に付き従う様になってしまった。

 彼らは王子が連れて来た二万人の戦士達の監視役になり、彼らの様子をセロリィ達に逐一報告する役目を担う様になったのだ。


 そしてセロリィ達は、オーク族で屈強な者を見つけると、直ぐにその者を招き厚く持てなした。

 招かれた者達は馳走を振舞われ。気が付くと、嬌声きょうせいを上げる姫の上で腰を振っていた。

 王子の婚約者である尊い姫を辱めた事に狼狽ろうばいする彼らに、セロリィ達は王子や周囲には内密にするという恩を着せ、次々と篭絡ろうらくして行ったのだ。


 これほど周到しゅうとうに策をめぐらされると、姫が王子に真実を伝えたとしても、オーク族の大半はセロリィ達の配下として留まる可能性が高い。

 オーク族には、セロリィ達に逆らうという選択肢は、既に残されていない。

 セロリィ王子妃は、極めて卑劣ひれつで、どこまでも狡猾こうかつだった。

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