第53話 「狡猾なセロリィ王子妃 Ⅰ」

「トマトゥル王子ご夫妻のご到着にございます!」


 チュオウノ王国の国境の街に、歓迎のファンファーレが鳴り響いた。

 豪奢ごうしゃな王族用の馬車から、トマトゥル王子とセロリィ王子妃が降りて来ると、儀仗兵ぎじょうへい達が一斉に姿勢を正す。


 セロリィ王子妃は、胸を張るトマトゥル王子から一歩下がり、付きしたがうといったていを崩さない。

 粛々しゅくしゅくとレッドカーペットを歩む姿は、はたから見れば、奥ゆかしく美しい王子妃にしか見えないだろう。


 謁見えっけんの間に辿り着くと、領主と主だった重臣達がひざまずき、謁見用の椅子に王子が座り、その脇に準備された豪奢な椅子に、セロリィ王子妃が着席した。


「トマトゥル王子。この度は王子みずからのご出陣、誠に有難き事にございます。しかも、セロリィ王子妃までお運び頂き、兵達の士気も一段と高まっております」


「ふむ。先ずは歓迎に感謝する」


「はっ!」


「私が来たからには勝利は間違いない。皆を喜ばせてやる故、しっかりと付いて来いよ」


「心強きお言葉、兵達も喜びましょう」


 領主も重臣たちも、この王子の評判は知っている。表面上は恐れ入っているが、内心は全く逆であった。

 出来る事なら王子の軍だけで戦って貰い。敗北しても被害を最小限に抑えたいと思っていた。

 王子はその様な気持ちを知ってか知らずか、ひざまずく領主達を冷ややかな眼差しで見つめている。


「セイホーウ国の国境へは、私の軍が攻め込む。お主らの兵は、こちらの国境の防衛でもしておるが良い」


「は、はい? 何と?」


「お主らの兵は、後衛に回すと言っておるのだ」


 領主達は、本当はそう有りたいと思っていたのだが、王子からそう言われてしまうと、臣下として、それをそのまま受け入れる訳にはいかなかった。


「何の。我が兵達が先陣を承ります。後衛などに甘んじる訳には参りません」


「ふむ。最もだが、こちらには策が有る故、お主らには任せておけぬ」


「お待ち下さい。策がございますならば、なおさら先陣を……」


「ふむ。無下むげにする訳には行かぬな。ならば十騎程出して貰おう」


わずか十騎でございますか」


「策の一手目の大事な任務だ。強く賢き者共を集めよ」


「……御意」


 ――――


「堂々として、まあまあ良かったわよ」


 金装飾が施された豪華なソファーに腰掛けながら、セロリィ王子妃が微笑んでいる。

 王族用の特別室で、室内にはトマトゥル王子以外は、セロリィ王子妃の配下の者しか居ない。

 トマトゥル王子はめられた事が嬉しかったのか、少し顔を上気させていた。


「もう直ぐ本隊が到着するわ。準備が整ったらパクティお願いね」


「はい。お任せ下さい」


「それと、オークのお姫様を起こして頂戴」


 セロリィ王子妃にうながされ、ピマンが治癒ちゆ魔法をほどこして、オークの姫を目覚めさせた。

 姫は目を覚ますと、最初に自分の下半身を確かめる。

 今日は誰とも繋がっていないことを確かめると、セロリィをにらみつけた……。


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