第51話 「城壁強化の依頼」

 シャルお婆様が魔法の先生をして下さるようになってから、私達は毎日の様に魔法の講義を受けています。

 新しくファミリアに加わったメンバーと共に、魔法の基礎から応用まで沢山の事を教えて頂き、本当に助かっています。


「良いかい。魔法を一段強くしようと思うなら、魔法に込める要素を増やさねばならないよ。お主、あの石壁に火の魔法を当ててごらん」


 指名された者が講義用の壁に向けて火球を飛ばしました。

 火球は壁に当たると、直ぐに消えてしまいます。


「では……」


 シャルお婆様が念を込めると、同じような火球が壁に飛んで行きますが、火球は壁に当たると、しばらくの間その場で燃え続け壁を焦がしました。


「次はこれで……」


 次の火球が壁に当たると、壁は爆発したかのように粉々になってしまいました。皆から驚きの声が上がります。


「ひひひ。驚く様な事じゃないよ。今のは儂の魔力が強いからじゃないからね。魔法に与える要素を足しただけさね。いいかい、良くお聞きよ……」


 ――――


 講義が終わった後、シャルお婆様が私達の所に来られました。

 シズさんの使う魔法が気になった様です。


「あんたの魔法は、何だか普通と違うねぇ。どうやっているんだい?」


 最初は言われている意味が分かりませんでしたが、そういえばシズさんの魔法は、籠手に込められたベニさんの風水の力も宝玉で加わっていたのでした。


「ひひひ。面白い籠手だねぇ。これもあんた達が作ったのかい?」


「ええ、私達はダメ冒険者だったので、皆で考えて作りました」


「クラフト師に精霊使いに風水師ねぇ。あんた達は本当に面白いねぇ。婆も創作意欲が湧いた来たよ。今度、治癒魔法が誰にでも使えるようになる籠手なんか、作って見たいものだねぇ」


「まあ、シャルお婆様! それ素敵ですわね! 一緒に作りましょうよ」


 いつ完成するのかは分かりませんが、とても人の為になる道具が作れそうです。

 シャルお婆様のお陰で、ファミリアもメンバーが育ち、街も更に住み良い場所になっていました。


 ――――


 そんなある日の事。この街を治める領主様の使いが藷所野しょじょのにやって来たのです。


「この城壁を作ったのはお前達で間違いないか?」


 使いの方は、藷所野の周りに施した野生動物除けの塀を指さしていました。


「はい。私達が作りました」


「うむ。そなた達が藷所野ファミリアで間違いないか? ファミリアリーダーはどこにおる?」


 私が手を上げると、使いの方は驚いていました。こんな小娘だとは思っていなかったのでしょう。


「う、うむ……。では、領主からの書簡である」


 そう言うと私に革巻きの書簡を渡されました。


「火急の事にて、直ぐに準備されよ」


 使いの方は、そう言って直ぐに去って行きました。

 皆の前で書簡を広げて読んでみると、その内容に驚いてしまいました。

 チュオウノ国王からの指示で。領主様を通じて国境の城壁強化の依頼が来たのです。

 どうやら、この塀が短期間で出来上がったのを見た役人が、領主に報告をして、それが王都に伝わった様なのです。

 文面上は依頼になっていますが、受けないという選択肢はありません。

 私達はいつものメンバーで、国境の街へと向かう事にしました。


 ――――


 シャルお婆様達が、国境の街を通って来たという事で、現在の状況を詳しく教えてくださいました。

 現在、私達の住むセイホーウ王国と、隣国のチュオウノ王国との間では国境を挟んで小競り合いが続いているそうです。

 これから戦火は拡大していく可能性が高く。国境の城壁強化の依頼は、恐らくその為だろうと言うことでした。


 そして、何よりも驚いた事は、私が奴隷どれいだった頃の所有者。あのセロリィ嬢が王子妃になっているという話でした。

 そのセロリィ王子妃の夫である、チュオウノ国第二王子の軍が迫って来ているという事で、国境は非常に危険な状況だというのです。




 翌日、私達は領主の準備した馬車で、国境の街へと出発する事になりました。

 ファミリアメンバーと、ガイさんとボンさん、そしてシャルお婆様達が見送りに来てくれました。


「良いかい。城壁をさっさと強化して、直ぐに帰っておいで。あんな危険な場所に長居しちゃいけないよ……」


 シャルお婆様が、とても心配そうにしています。


「それと、これを持っておいき」


 シャルお婆様は、私達に小さなアクセサリーを渡してくれました。


「ラッキーチャームという物さ。ミントが編んで私が念を込めて於いたよ。役に立つかは分からないけれど、気休めにはなるだろうさ」


 頂いたチャームを装備の内側に付け、私達は馬車に乗り込みます。

 城壁の強化が終わるまでの、ほんの一時のお別れと思いながら、笑顔で馬車から手を振り、私達は藷所野を後にしました……。

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