第50話 「四人の秘め事」

 サンドランド国は国土の大半を砂漠が占めているにも関わらず、そこから産出される金や宝石といった鉱物資源が豊富な国で、近隣諸国の中では極めて豊かな国である。

 その首都の豪奢ごうしゃ華麗かれいさまは、見る者を圧倒し魅了して止まない。

 金装飾がふんだんに使用された王族の住む王宮の建物は、砂漠の中で燦然さんぜんと輝きを放ち。その建物の内部は更に豪華で、他国では高価な美術品として扱われそうな装飾で満ち溢れていた。


 ――――


 やからの襲撃から五日。ルンダーンの隊商は無事に首都へと辿り着いた。

 ケーバブ達はルンダーンの屋敷へと招かれ、そのまましばらく滞在する事になったのだ。


 ルンダーンの命の恩人という事もあり、ケーバブ達をもてなすうたげが連日開かれ。ルンダーンの可憐かれんで美しいきさきであるファヒータと共に、昼夜を問わず四人で多くの時間を過ごした。

 ルンダーンとケーバブの仲は更に深まり。二人で何やら楽しそうに話す姿を、バジルとファヒータが嬉しそうに眺めていた。


 ルンダーンの妃ファヒータは、この国の貴族の娘だ。

 母親の家系が北部の出身で、砂漠の民の中では、かなり色白でつややかな肌色をしている。

 ベールから覗く瞳は、透き通った翡翠ひすい色をしていて、彼女を見る者を魅了する。

 その可憐で美しい容姿をルンダーンが見初め、他の並み居る求婚者達を蹴落として、彼の妃にしたのだ。

 彼はファヒータを寵愛ちょうあいするあまり、非常に嫉妬しっと深く、彼女を他の男が見つめる事さえ嫌がる節があった。

 そんな彼が、何故かケーバブにだけは敵愾心てきがいしんを抱かず、四人で出来るだけ多くの時間を過ごすようになっていた。

 そしてある夜、ファヒータにケーバブの印象を聴いた後。彼女に有る事を伝え、動揺する彼女を説得し始めたのだ……。


 ――――


 ケーバブ達は、ルンダーンの屋敷の離れにある部屋を与えられた。

 広々とした部屋には、華麗な装飾が施され、天蓋てんがい付きの豪華なベッドが置いてある。

 この離れは夜になると誰も立ち入って来る事は無い。


 ケーバブは、美しい衣装に身を包んだバジルの姿を愛でると、口づけをしながら彼女の衣装を解いた。

 やや褐色かっしょくがかったバジルの裸体があらわになる。

 今日はケーバブがいつもにも増して興奮している様子で、上気した顔でバジルに覆いかぶさり、彼女の上半身をきつく抱きしめた。

 ケーバブはバジルの体をまさぐりながら、彼女の視界をさえぎるかのように、口づけを続ける。

 ケーバブの愛に、気が高まって来たバジルから、吐息の様な嬌声きょうせいが漏れ始めた。


 バジルはこの時不思議な感覚を味わっていた。愛しいケーバブの手や唇が増えた感覚に襲われたのだ。

 自分を抱きしめているはずの手が下半身を弄り、口づけをしているはずの唇が下半身をいずっている感触が伝わって来る。

 まるで、複数の男達にもてあそばれている時の様だった。


 バジルは快感に身を任せていたが、ケーバブが耳元で愛をささやき、手を握りながら彼女から体を離した時に、不思議な感触の理由が分かった。

 バジルの脚の間に、ルンダーンの嬉しそうな顔があり。彼女の下半身をまさぐっていたのだ。

 バジルは驚いたようにケーバブの顔を見たが、そこには異常に上気し興奮した顔があり。問いかける様なバジルの瞳を見つめながら、説得する様に何度もうなづいていた。


 ケーバブはバジルの手を握ったまま、ルンダーンがバジルを弄るのを、恍惚こうこつの表情で見つめている。

 ルンダーンがバジルに覆いかぶさると、ケーバブは手を離した。

 ケーバブが求めている行為を理解したバジルは、ルンダーンを受け入れる。

 ルンダーンが激しく腰を振り、堪らずバジルが嬌声を上げ始めると、ケーバブは興奮のあまり、触りもしていないモノから精を溢れさせてしまったのだ……。


 ――――


 話はケーバブが『卑劣ひれつな印』から意識を取り戻した時に戻る。

 意識の無い彼が、精管に施された「印」を精のほとばしりで消し去り、自力で目覚める事が出来たのは、この性癖せいへきのお陰だったのだ。


 彼は目覚める数日前から、耳は聞こえていて、周りの状況を感じる事が出来ていた。

 自分を愛しんでくれるバジルが、自分の為に村の男達に弄ばれている事に興奮を覚え、自分を守るために醜悪しゅうあくなオークに犯される彼女の嬌声を聞き、興奮のあまり精を溢れさせてしまったのだ。


 彼は、愛しい女が他の男に抱かれ嬌声を上げる事に、異常な興奮を覚える性癖の持ち主だった。

 そして、真の友と言えるような間柄になったルンダーンが、自分と同じ性癖を抱えている事が分かり、二人で分かち合う事を決めたのだ。


 ――――


 ルンダーンがバジルとの行為にふけっている中。彼のきさきである美しく可憐かれんなファヒータが、薄いベールだけをまとい部屋に現れた。

 彼女はバジルとルンダーンの嬌態きょうたいを横目に、覚悟をした様な表情をしながら、ケーバブへと寄り添う。


 ルンダーンは、自分達を見つめるファヒータに気が付くと、口元をほころばせながら頷き。彼女に言い含めた行為をするよううながした。

 ファヒータはケーバブに口づけをすると、直ぐにベールを脱ぎ去り。夫であるルンダーン以外の男に初めて美しい裸体をさらした。

 ルンダーンはゆっくりと腰を振りながら、その姿を食い入る様に見つめている。


 ケーバブは、同じ性癖を持つルンダーンが、嫉妬しっとと興奮でおかしくなりそうなくらい、ファヒータをもてあそび嬌声を上げさた。

 そして、彼の目の前で幾度も彼女を逝かせ、ファヒータに激しく求められながら精を放出した。


 愛するファヒータの、あるまじき嬌態を見せつけられ。強烈な嫉妬と共に、気絶しそうな程の興奮を味わったルンダーンは、二人への仕返しとばかりに、バジルに出来る限り卑猥ひわいな格好をさせ、嬌声を上げ続ける彼女に精を放出した。




 この夜の性の宴は入れ替わり立ち代わり朝まで続いた。

 四人の秘め事は、ケーバブ達が一旦この地を去るまで、毎夜の様に繰り返されたという。

 だが、この四人の秘め事が、このサンドランド国の未来だけではなく、この後に勃発する戦役の趨勢すうせいを決する事に繋がるとは、この時誰も予想すらしていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る