第33話 「憧れ」

 歩きながらの移動はやはり時間がかかります。

 今日も街を越えた所でキャンプを張りました。ボンさん達が居るので、街中に宿を取る訳にはいかないのです。


 けもの除けの焚火たきびを囲んで話をしていると、別の冒険者達が同じ場所でキャンプを張り始め、話し掛けて来ました。

 冒険者達は、私達に話し掛けてからボンさんが背後にいる事に気が付いた様で、腰を抜かす程驚いていました。

 でも、私達がオーガを三人も連れているのを見て、面白い話を教えてくれたのです。


 私達がこれから向かう街で、誰も解決できない依頼があるらしいのです。

 どうやら洞窟に潜むオーガを退治する依頼だという事でした。

 そのオーガが手強てごわいらしくて、多くの冒険者達が返り討ちに遭っているそうなのです。私達であれば上手く事が運べるのではないかと教えてくれたのでした。

 この話をドンから聞いたボンさんとガイさんが、そのオーガに是非会いたいと言うので、街に着いたら依頼を確認しに行くことになりました。


 ――――


 翌日、冒険者に教えて貰った街に着きました。

 ボンさん達を連れて街に入ると大騒ぎになるので、街の外れで待って貰い、私とサキさんの二人でギルドに向かいます。


 ギルドの掲示板を見て依頼を探すと、一番目立つところに貼ってありました。

 しかもかなり困っているようで、報奨金は他の依頼に比べると十倍程の金額になっています。私達は金額よりもオーガの事が気になっているので、直ぐに受注しに行きました。


 小娘二人が高難度のクエストを受注しに来たので、受付のお嬢さんが困っていました。周りの冒険者からも冷やかしの声が掛かります。


「申し訳ありませんが、この依頼は高難易度指定ですので、ファミリアでしか受注できません……」


「ええ、ファミリアで受注しますよ」


「えっ? そ、そうですか……ではファミリアネームと登録証をお願いします」


「受注のお使いか? その依頼はファミリアリーダーが直接受けないとダメだぞ」


 男性パーティがニヤニヤしながら冷やかしてきます。


藷所野しょじょのファミリアです。私がリーダーのレイです」


 私が登録証を渡しながらファミリアネームを伝えると、一瞬周りが静かになりました。


「しょ、藷所野ファミリアだと……」


 ニヤニヤしていた冒険者達の表情が急に凍り付き、ギルド内がどよめきました。

 私達が歩いて移動しているうちに、「藷所野ファミリア」の噂の方が先に広まっていたようです。


 ――――


 受注を済ませ、最低額の救助保険金を支払い、ざわついているギルドを後にしました。

 街の外へ向けてと歩いていると、ギルドから後を付いて来ていた男の冒険者が話し掛けてきました。


「なあ、あんた達は本当に藷所野ファミリアなのか?」


「ええ」


「聞いてる話と違うなぁ。オーガも連れていないし、何だか弱そうだし。本当に大丈夫かぁ?」


「お構いなく。もうすぐ皆と合流するので」


「……」


 男は黙って下がって行き、他の冒険者と何やら話をしているようです。

 男の連れが足早に去って行きます。恐らく街を出た辺りで、待ち伏せでもするつもりなのでしょう。

 争いごとは面倒なので、かねてからの打ち合わせ通りに、時間潰しをする事にしました。サキさんと食料品の買い出しをして、お茶ができるお店でゆっくりと過ごします。


 目立つ格好をしているので、ギルドで私達を見かけた女性冒険者達が話し掛けに来てくれます。皆さんと楽しくお茶をしました。

 何人かの冒険者とは、とても仲が良くなり、藷所野に訪ねて来ると言っています。皆さんとの再会が楽しみです。


 その中でも、目を輝かせながら話し掛けて来た、幼い双子の女の子が印象的でした。

 ポコと同じ年頃でしょうか、私達の様な冒険者になりたいと言われ。何だかとても嬉しい気持ちになりました。

 私なんかが、少女達のあこがれの対象になるなんて、思ってもいなかったからです。嬉しくて思わず姉妹を抱きしめてしまいました。


 ――――


 日が暮れて来たので、そろそろ街を出る時間になりました。

 サキさんと両手に食料品を抱えて街の門をくぐります。

 街が見えなくなった頃。思っていた通り、昼間に話し掛けて来た男達と再会しました。

 この人達とは、再会のお約束はしてないのですが……。

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