第32話 「帰還報告」

 オレリル鋼の剣は、やはり凄い剣でした。

 オーガの里の長老も伝承でんしょうでしか知らない事でしたが、オレリル鋼で出来た剣は、別名「忠誠の剣」と呼ばれているそうです。

 何故なら、使用する者に合わせて調整をほどこさないと、全く役に立たないのです。

 ある者には木の枝よりも軽く、ある者には持ち上げる事すら出来ない重さになるのです。

 試しにオーガの里に居る護衛の戦士達が持ってみましたが、誰も木の棒すら切ることが出来ませんでした。


 ところが、サキさんは舞う様に使いこなし、巨大な岩ですら刃こぼれひとつせずに切り割ってしまうのです。

 そして、その剣を調整する事ができるのは「アマツマラのつち」と同じく、オレリル鋼で出来た鎚を使い、高いクラフト技術を持つ者のみ。

 この世界に数本しか無いと言われるオレリル鋼の剣が、いつの間にか「戦いには使えない剣」として、王宮の宝物庫に姿を消していくのは、そういう理由からだそうです。


 ――――


 私はサキさんが現れた時の戦いで、自分の不甲斐ふがいなさに気が付かされました。アイテムを使う事以外で、戦うすべを持っていなかったのです。

 あの時、ポコを守ることすら出来ませんでした。

 実際に役に立つのかは分かりませんが、私は自分専用の武器を作成する事にしたのです。


 アマツマラの鎚で細かく調整を施しながら仕上げて行きます。

 七色に輝くやりの様な棒状の武器が出来上がりました。

 片方の端は小型の鎚の形をしています。もう片方の端、石突いしづきの部分は六角すいの尖った形をしています。

 オレリル鋼で出来たこの武器は、鍛冶かじで使う「大槌おおづち」をした物なのです。


 この武器を相手のどこかに当てる事さえ出来れば、私はその部分をクラフトして、形を無くしてしまう事が出来ますし、尖った石突の部分で貫けない物質は殆どありません。もちろん、積極的に戦うつもりは有りませんが、皆を守る手助けは出来ると思います。


 長老が出来上がった物を見て「アマツマラの長小槌ながこづち」と呼ばれたので、私の武器の名前はその呼び名に決まりました。

 それからしばらくは、戦闘能力のとぼしい私を鍛える為に、ハナちゃんとサキさんと一緒に戦闘訓練に参加する日々が続きました。


 ――――


 オーガ語の勉強をしつつ、オーガの里での楽しい日々を過ごしていましたが、そろそろ藷所野しょじょのに戻らなければいけません。

 私は残ったオレリル鋼で、オーガの里へお守りを作りました。

 丸い鏡の様な物ですが、大自然の力に精霊たちの加護が込められた宝玉ほうぎょくを散りばめた物です。皆でこの里の安全と幸せを願う気持ちを込めて作りました。


「このお守りからは、おぬし達の慈愛の気持ちが溢れている。本当にありがとう。オーガ族の宝じゃ」


 旅立つ前日に里の皆さんとうたげを開いて下さり、その時にお守りを渡すと、長老は涙を流されました。

 少しだけ会話が出来るようになった母オーガも、別れを惜しんで私たちを抱き締めながら泣いています。もちろん私達も……。


 ――――


 オーガの里の皆さんに見送られながら、私達六人……いえ、九人は里を後にしました。

 ハナちゃんを肩にのせたボンさんと、当たり前のように先頭を歩くガイさん。そして人語が話せるドンさんが、ポコを肩車しながら私達と一緒に歩いています。


 ドンさんは長老のお孫さんで、鍛冶職人の修行という事で付いて来る事になりました。

 ボンさんとガイさんは、ドンさんの護衛と武者修行という名目での同行ですが、とにかく二人が私達と一緒に居たいという事を長老から聞かされました。

 こんなに嬉しいことはありません。


 ダンジョンを出て、山のふもとにある街に戻ります。

 恐ろしいオーガを三人も連れた私達が街に入ると大騒ぎになりました。

 オーガの襲撃と勘違いして、戦いを挑んで来る冒険者をなだめるのに一苦労です。


 帰還報告をする為に街のギルドに着いた頃には、私たちの周りは黒山の人だかりで大変な事になっていました。

 そして、三人のオーガをファミリアメンバーに登録した事によって、人々の驚きは最高潮に達したのです。


 落ちこぼれの小娘達がファミリアを結成し、生還する者の少ないダンジョンの最深部を攻略しただけでなく、オーガ族の屈強な戦士を連れ帰り、ファミリアメンバーとして登録した。

 この話は、冒険者や行商人の語り草になり、「藷所野しょじょのファミリア」の名前は、私達が知らない内に徐々に広まって行ったのです。




 藷所野へは徒歩で帰る事にしました。ボンさんが大きすぎて荷馬車に乗せる事が出来ないからです。

 九名に増えた藷所野ファミリアのメンバーと共に、ゆっくりと歩きながら藷所野への道を進んで行きます。

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