第34話 「腕組みをするガイさん」

 ギルドを出た所で話かけて来た男がニヤニヤしながら近づいて来ました。


「あんた達はどうも胡散うさん臭くてなぁ。最近噂になっているファミリアをかたる、性格たちの悪い女冒険者じゃないか確認しに来たんだ」


「……」


「もし偽物なら、悪いことは言わねぇ、俺たちにらしめられる前に、白状して裸になりな」


「……」


「何だよ、何とか言えよ! 楽しむ前に懲らしめてやろうか!」


 サキさんが荷物を持ったまま、男の前に立ちました。


「女。何してるんだ、嬉しいのか知らないがニヤニヤしてねぇで、早く脱げ!」


「おっさん達さあ、私達の美貌びぼうに目がくらんでいるのは分かるけど、自分たちの背後にも気を使った方が良いと思うわよ」


「ああ? 何だ?」


 男達が振り向くと、大きな壁がありました。ボンさんです。


「なっ……」


 驚いて私達の方を向きなおすと、目の前にガイさんとハナちゃんが立っています。

 ガイさんが怒りの表情で手招きをして、”掛かって来い”というアピールをしています。


「……ほ、ほ、本物だー!」


 男たちは転がるようにして逃げ去って行きました。

 この世界には、もう少しまともな男は居ないのでしょうか……。


 ――――


 買ってきた食材で豪華なキャンプをして、翌日は依頼先の洞窟に向かいます。

 でも、洞窟に向かい始めると、大変な事が起こり始めました。そこかしこから、モンスターや獣達が襲い掛かって来るのです。

 いつもだと、ボンさんやガイさんを見ただけで逃げていく様な者たちでさえ、果敢かかんに挑んで来ます。大した敵ではありませんが、引っ切り無しに襲って来るので、なかなか前に進めません。

 そんな中、シズさんが首をかしげて考え事をしています。


「シズさん、どうかしましたか?」


「ええ、ちょっと気になる事があって……」


「どうしたの?」


「ちょっと良いかしら」


 シズさんは腕を広げると、一斉に精霊たちを周囲に放ちました。キラキラしていてとても綺麗です。

 襲って来るモンスター達に精霊が触れると、一瞬動きが止まり驚いた様に逃げて行きます。

 あっという間に襲って来る者はいなくなってしまいました。

 いったいどういう事でしょう。


「やっぱり……。この者達は精霊に使役しえきされているわ」


「精霊に使役?」


「ええ、精霊の力で無意識に襲って来ているのよ。だから、精霊の影響を解除してあげたら、我に返って逃げて行くのよ」


「ということは、問題のオーガも使役されているって事?」


「分からないけれど、オーガの後ろに、何かが存在しているのかも知れないわね……」


 その後は、シズさんが精霊を放ちながら進み。全く襲われずに洞窟へとたどり着く事が出来ました。


 洞窟を覗き込むと、暗がりの中から、ガイさんと同じくらいの大きさのオーガが斧を構えてのっそりと出て来ました。

 シズさんが精霊を放ちましたが、精霊が触れても、そのオーガの態度は変わりません。

 ガイさんが私達を手で制して、ひとりでオーガの前に立ちはだかります。


 最初は斧を構えていたガイさんですが、出て来たオーガを見て、斧を地面に突き刺し腕組みをし始めました。

 武器を手放して腕組をするなど、すきだらけで危ない感じがしますが、筋骨隆々で胸を張るガイさんには、付け入る隙は全く感じられません。

 相手のオーガも間合いには入らず、斧を構えたまま、ガイさんを慎重に観察しています。り足で間合いを取りながら、打ち掛かるタイミングを伺っている様です。

 腕組みをして全く動かない余裕のガイさんとは逆に、はたで見ている私達の方が緊張しました。


 その瞬間は突然訪れました。

 斧を構えていたオーガが動き出したかと思った刹那せつな、ガイさんは斧を取ることなく、振り下ろされた斧をかわし、相手の背後に廻り込みます。

 相手はガイさんが斧を取る瞬間を狙ったのですが、完全に裏をかかれた状態でした。斧が空を切り、体勢が崩れたところで足を払われ転倒します。

 起き上がろうとした時には、ガイさんの斧が首元に突き付けられていました。

 オーガは斧を地面に伏せ、その場に座り込みガイさんにこうべを垂れました。負けを認めたのです。


 勝負の行方を確認してガイさんの周りに集まると、何やら話をしている声が聞こえてきました。

 負けを認めたオーガが神妙そうな表情をしながら答えています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る