第28話 「異世界からの転生者」

「それでね。そこにいた人に、私はいつ転送されるのか何度も聞いていたの……」


「それは誰? 神様?」


「うーん。分からない。でも、一刻も早くミコ様の傍に行きたくて、本当に焦っていたわ」


「でも『時が満ちておらぬ』とか言って、聞いてくれなかった。随分と長い時間待たされた気がするわ……」


 突然現れた彼女の話は衝撃的でした。

 彼女の名前はサキさんと言うそうです。

 ボンさんとガイさんを除いて、私達は全員サキさんと同じ別の世界の人間で、高校という場所に一緒に通っている仲間だそうです。

 しかも、私達は人族では無く、あちらの世界では変化へんげという手段で、人族と同じ姿をしていた獣人族的な存在だったと言うのです。


 実は私はきつね族の皇女だったそうで、サキさんは護衛を兼ねた付き人。

 私の名前はミコという名前だそうですが、全く記憶に有りません。

 奴隷どれいとして記憶が無いまま拾われ。それ以来、奴隷の「レイ」を取って、レイと呼ばれて来ました。


 他の皆は、それぞれそのままの種族だった様です。

 シズさんはたぬき、ベニさんは烏天狗からすてんぐ、ハナちゃんは猫族で、それぞれ非常に高い能力を持った、一族の中でも位の高い者達だったそうなのです。

 皆の能力が高いのは、転生前の能力が高かったからだと言われました。


 そして一番驚いたのが、ポコがコウタという男の子だったという話でした。

 私は彼の事が大好きだったそうで。彼に会うために周りの皆を巻き込み、高校という人族の社会へと入り込んでいたそうなのです。

 そしてそこで、邪悪な魔王の様な者と戦い。その最中に魔王の術でこの世界へと飛ばされたと言う事でした。


 彼女が言う通り、私達にはある時を境に、それ以前の記憶がありませんでした。

 年月としつきの差はありますが、人生の途中からこの世界での暮らしを始めた様です。私たちは、いわゆる異世界からの『転生者』だったのです。


「サキさん。あなたは前の世界に戻る方法を知っているの?」


「いえ、全く分かりません」


「良かった。私たちは全員その世界の記憶が無いし。今は皆で幸せに生きているから、このままで良いのよ」


「ミコ様がそうおっしゃるのなら、私には異存いぞんはございません。私はあなた様に付いて行くだけです」


「あの……。その『ミコ様』も止めて下さいますか? 私はレイという名前で幸せです」


「え? あ、はい。分かりました、レイ様とお呼び致します」


「サキさん『様』は要らないわよ。前の世界での関係は、前の世界での話。この世界ではお友達になりましょう」


「お、お友達……。皇女のミコ様とお友達…………」


 サキさんはつぶやきながら、突然気を失ってしまいました。シズさんがあわてて治癒ちゆ魔法を掛けます。

 しばらくすると、サキさんがうっすらと目を開きました。


「レイさん? 私どうしたのかしら」


 サキさんが、キョトンとしています。


「前の世界での話をしている時に、気を失ったのよ」


「前の世界の話? 何ですかそれ」


「サキさんが、私たちは全員別の世界からの転生者だと……」


「うふふふ。レイさん私をからかっているの? 転生なんて有る訳ないじゃないですか」


「……」


 私たちは顔を見合わせました。

 サキさんは気を失った一瞬で、話した事や前の世界の記憶を完全に忘れてしまった様です。もしかしたら、私たちもそうだったのかも知れません。

 サキさんが話した前の世界の事は、きっと本当の事だと思います。

 でも、私たちはこの世界で出会い、助け合いながら一緒に楽しく過ごしています。

 それで十分なのです。




 サキさんにこれからどうするのか聞くと。皆と一緒にいる事しか考えていないと言っていました。私もサキさんと一緒に居る夢しか見ていません。

 私たちは全員、何かしらのきずなで結ばれていることは間違い無い様です。

 サキさんは「オレリル鋼の剣」を使いこなせる高い戦闘能力と、多くの魔法が使える凄い人でした。

 いきなり現れて驚きましたが、心強い仲間がまたひとり増えたのです。

 危険なダンジョンの中ですが、何とも不思議な気分に浸りながら、皆と楽しい夜を過ごしました。

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