第27話 「現れた彼女」

「ポコ、私達にもしもの事があったら、ポコだけはどうにかして逃げ延びてね……」


  私がポコを見つめながら、そう呟いた時でした。突然目の前に娘さんが落ちて来ました。

 何も無かった空間から急に現れて、私の背丈位の高さから落ちて来たのです。


「あ痛たたたた……。うん? ここは何処どこ


 娘さんは驚いた様に周りを見渡していましたが、私を見るなり嬉しそうな顔になりました。


「ミコ様! ご無事で!」


「!?」


 私は突然の出来事に声が出ません。

 彼女が言う『ミコ様』が誰の事だかは分かりませんが、彼女の顔には既視感がありました。

 そう、この娘さんは夢の中で見続けていた彼女で間違いありません。

 やはり『オレリル鋼の剣』の完成と共に、彼女と相まみえる事になった様です。


 まさか、こんな出会い方とは思っても居ませんでしたが、確かに彼女は現れました。

 そして、何故か私を見ながら瞳をうるませています。


「よくぞ御無事で……」


 彼女がどうして瞳を潤ませているのかは分かりませんが、私も彼女に会えてとても嬉しい気持ちになっていました。

 夢で見続けていた彼女と遂に会う事ができたのですから。


 その時、ドラゴンの鋭い咆哮ほうこうが再び響き渡ります。

 彼女の出現で一瞬忘れていましたが、今は危機的状況でした。

 何とかしなければなりません。


「ちょっと何この状況……。ああ、でも皆いるね!」


 彼女は周りを囲むモンスター達を見て。私達の置かれている状況が直ぐに理解できた様です。

 急いで立ち上がると、モンスター達に次々と魔法を掛け始め。私にも何やら魔法を掛けました。

 すると、モンスター達の動きが急に遅くなり、止まっている様に見え始めたのです。

 どうやら、魔法でモンスターの動きを遅くして、私の動きを速めた様でした。


「ミコ様。何か武器は有りませんか?」


 彼女の問いかけに、弾かれるように武器と装備を取り出します。

 私達と同じデザインの防具と、ここ数日のキャンプ中に完成した「オレリル鋼の剣」。

 どちらも、調整の必要は有りません。夢の中で見続けた彼女に合わせて既に仕上がっているからです。

 彼女は素早く防具を身に付けると、キラキラと七色に輝く美しい剣を手に取りました。


「素晴らしい剣ですね……。では、行って参ります」


 彼女は周りのモンスター達に魔法を掛けながら、ハナちゃんの元へと駆け込んで行きます。


「シズ様とベニ様は、私とハナちゃんの援護をお願いします!」


「「えっ?」」


 モンスター達の動きが急に緩慢になった上に、聴き慣れない声に名前を呼ばれ、二人は呆然と娘さんの方を見ていました。

 知らない娘さんがいきなり現れた上に、自分達の名前を呼び、悠然と戦い始めたのですから当然かも知れません。


「ハナちゃん行くよ!」


「えっ。誰にゃ?」


 ハナちゃんも怪訝けげんそうな顔をしていましたが、彼女が目の前の敵を切り倒したのを見て、直ぐに横に並び戦い始めました。

 驚いた事に、二人の息はぴったり。

 何年も共に戦って来た様な連携で、モンスターの群れに挑んでいます。


 彼女の魔法と凄まじい剣技のお蔭で、モンスターは次々と倒されて行きました。

 シズさん達の攻撃支援のタイミングもバッチリで、モンスター達はあっと言う間に数を減らしています。

 そして、気が付けば、敵は猛り狂うドラゴンだけに……。


 流石に困難な戦いになると思っていましたが、彼女はドラゴンに反撃のいとまも与えず。普通の剣ではとても歯が立たないドラゴンのうろこをも軽々と切り裂き、ハナちゃんと二人だけでドラゴンを倒してしまいました。


 そして、彼女たちは直ぐに取って返すと。ガイさんとボンさんが戦うオーガ達に向かって行きました。

 その時になって初めて、ガイさんとボンさんがモンスター達と同くスローテンポで戦っている事に気が付きます。

 どうやら、彼女は彼らにも動きが遅くなる魔法を掛けてしまった様です。

 そして、彼女は駆け込む勢いのまま、何とボンさんを攻撃しようしたので、ハナちゃんが慌てて止めました。


「この二人のオーガは味方にゃ!」


「えっ、そうなの? ごめんなさい」


 彼女が慌ててガイさんとボンさんに魔法を掛け直します。

 急に動きが早くなった二人と共に、オーガの群れを無事に退治する事が出来ました。

 一時は全滅するかも知れないと怯えましたが、彼女の登場で一気に形成が逆転し、全員無事に生き残る事ができたのです。




 突然現れた彼女はいったい誰なのでしょう。

 詳しく話を聞きたいところですが、いつまた屈強なモンスターに襲われるか分かりません。

 取りあえず安全な場所へと移動し、今日のキャンプ場所の確保をしてから、皆で話をしたいと思います。

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