第21話 「バジル達の行方」

 国境の街で始まった戦いは、その戦力差から一方的な状況になっていた。

 隣国から侵入してきた領主率いる騎兵達は、数倍の兵力の前に次々と討ち倒され、その数を減らしてゆく。

 騎兵達は本国に戻るべく、国境へ向けて突破口を開きながら退却戦を行っている。

 だが、守るべき者でも居たのだろうか、十騎程の騎馬が取って返し、囲みを狭めていく敵兵の中に切り込んで行った。

 この騎馬隊の行動が、順調に狭められていた囲いにほころびを生じさせ、隙をついた他の騎馬兵達の反攻も加わり、街中の辻々での乱戦となった。


 その乱戦の中、宿屋から冒険者風の女達が出て来た。

 女達はひとりの豪奢ごうしゃな衣装を着た女性を守る様に移動し。その後ろを粗末な服を着た女達が続いている。

 だが、不幸な事にその女達の列が戦いに巻き込まれ、後続の女達が兵士の剣戟に追い立てられ逃げ惑っていた。


 幾人かは前を行く女冒険者達に付いていく事が出来たが、ひとりの娘が馬に顔をられ道端に転がり動かなくなる。

 別の女は騎馬兵を切りつけた剣が弾かれた場所にいた為に、背中に深手を負わされてしまった。

 女は切りつけられた勢いで騎手を無くした馬に倒れ込み。あぶみに腕が挟まった状態で馬に引きずられて行く。

 その馬の背には、意識が無い若い男がくくりり付けられているが、乱戦の中で騎手のいない馬などを気にする者は居らず。混乱の中、臀部でんぶに矢の刺さった馬は街の外へと駆け出し、何処いずこともなく消えて行った。




 幾人もの兵士の死体が道端に転がる中に、ローブをまとった怪しげな女が現れ、馬に顔を蹴られて動かなくなった娘を家へと引きずり込んだ。

 

「ひひひ。どうやらまだ生きている様だね」


 娘は瀕死ひんしの状態だったが、まだ息があったのだ。

 ローブ姿の女が、馬の蹄鉄ていてつの形にへこんだ女の顔に手をかざす。


「こっちは治癒ちゆできそうだね……」


 ローブの女が何かを静かにつぶやくと、凹んでいた娘の顔が元の形を取り戻し始めた。

 そして、治癒を受ける娘の横に、もうひとり意識の無い若い男が転がっていた。この男も女が家に引きずり込んだ者だ。


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 臀部でんぶに矢を受けた馬は、ボロ雑巾のようになった女を引きずったまま一昼夜走り抜き、国境から遠く離れた村の水場で足を止めた。

 翌朝、農作業に出ようとしていた男達がその馬を見つけ、意識の無い男女を村の治療ちりょう師の元へと運びこんだ。

 男の方は治療師が手をかざしても回復のきざしが見えなかったが、女の方は徐々に傷がえ始めていた。


 村の治療師はそれ程能力の高い者では無かったが、数日して女の方が意識を取り戻した。

 女はバジルと名乗り、治療師にお礼を言うと共に、意識がない男が回復するまで村に置いて欲しいと願ったのだ。

 村の者と話し合った結果。村外れにある空き家に、バジルと意識の戻らない男を住まわせてやることになった。


 実はバジルは男が誰だか分かっていた。彼は隣国の領主の息子だ。

 男は何か強力な魔法でも掛けられているのか、意識が無いまま回復しない状態が続いている。

 彼女はパクティ達に強制されたとはいえ、この男をだまして酷い目に遭わせたことは知っている。贖罪しょくざいの気持ちもあり、男の回復を願っていたのだ。

 彼女は噛み砕いた食べ物を口移しで男に飲ませ。自分にその様な力が無い事は分かってはいるが、回復の祈りを込めながら毎日男に手をかざしていた……。


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 村に置いて貰える様になってから一週間が過ぎた頃。バジル達の居る家に男達がやって来た。

 彼女はこれまで村人から食べ物を恵んで貰って生活していた。

 訪ねて来た男達は、いつも食べ物を持って来てくれる連中だ。

 今日は手にうさぎの肉を持っている。

 男達はバジルを囲むと、ニヤニヤしながら肉を差し出した。


「なあ、あんた。これ食べたく無いか? その男の体にも良いと思うぞ」


「は、はい」


「だろう? でもな、俺達も貧しい中で、あんたに食べ物を分けてやっている事は分かっているよな?」


「ええ」


「これからもタダで貰い続けるというのは、虫が良すぎやしないかなぁ。あんたどう思う?」


「はい……」


 バジルには男達の目的が分かっていた。

 話しかけている男達の粗末な服の隙間からは、既に起ち上がったモノが見え隠れしていたのだ。

 その手の行為はセロリィ嬢達に散々やらされて来た。別に抵抗感は無い。

 むしろ、自分達の命をつなぐ為ならば嫌はなかった。

 何も返事をしないバジルの手足を男達がつかむ。


「文句は無いよな?」


 バジルがうなづくと、男達はバジルを裸にしていやらしく体をまさぐり始めた。

 男達はゴブリンとは違い、いきなり生殖行為をしたりはしない。

 バジルが嬌声きょうせいを上げ始めるまで、三人でじっくりと弄り続け、自分達の妻には応じて貰えない様な卑猥ひわいな格好をバジルにさせ、散々もてあそんだ。

 バジルを幾度もかせ、自ら男を求める言葉を言わせると、ひとりの男が満足げに行為を始めた。別の男がバジルの口を犯し、もうひとりが体を攻め続ける。

 その晩、男達はバジルに幾度も精を放出し満足そうに帰って行った。


 それから毎日、村の男達が代わるがわるバジルの元へ訪れる様になり。食べ物を置いて行く代わりにバジルの体を楽しむ様になった。

 バジルは村の女達に淫売いんばいののしられ唾棄だきされながらも、未だ意識の戻らない男の世話を焼き続けたのだった。

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