第20話 「オーガの里」

 ダンジョン内の洞窟を、母子オーガ達に連れられて歩き続けています。

 どの位の距離を歩いたでしょうか、洞窟の先の方に明かりが差しているのが見えました。

 洞窟を抜けると、眩しい陽射しが飛び込んで来ます。

 目が慣れると、そこには切立った山々に囲まれた緑あふれる美しい土地が。

 どうやらダンジョンから地上に出て来た様です。


 なだらかな草原の先に大きな川が流れ。川を渡った先に山肌をくり抜いたような家の扉が見えます。

 そこには沢山のオーガ達が生活している姿がありました。どうやら私達はオーガの里に招かれた様です。


 里の手前の川に大きな橋が一か所だけ架けてあり、その手前に重装備の巨大なオーガが二人立っていました。里への外敵の侵入に備えての警備でしょうか。

 母オーガが警備のオーガに何かを伝えると、私達はとがめられる事もなく橋を渡る事が出来ました。


 橋を渡り里に入ると家の扉が近くに見えます。でも、なかなか辿り着きません。

 よく考えたら、オーガ達が住んでいる家の扉でした。大き過ぎて近くに有る様に見えていたのです。

 辿り着くと、私達の使っている扉の三倍は有ろうかという巨大な扉でした。


 扉の中は洞窟をくり抜いた大きなお部屋。

 私達の背丈位のテーブルや、腰の高さの椅子があります。

 とにかく、置いてある家具や食器など全てが大きいのです。

 私達は子ども用の椅子とテーブルに案内されました。

 母オーガがれてくれた、お茶の器を両手で抱えながら頂きます。


 シズさんの精霊で子供達と遊んでいると、母オーガが両手で押さえる様なジェスチャーをしてドアから出て行きました。

 何となく「そのまま待っていてね」と言われた感じがしたので、子ども達と遊びながら待つことに。

 しばらくすると、帰ってきた母オーガがドアの外から手招きしています。

 呼ばれている様なので皆で外に出て行きました。


 ----


 母オーガに連れられるま、里の奥の方へと歩いていると、里に人や獣人が入って来るのが珍しいのか、里のオーガ達が珍しそうに私達を見ています。

 でも、実は私達もオーガ族に興味深々。オーガの里には多種多様な姿のオーガが住んでいました。

 見上げる程の巨体の者。逆に私達とあまり変わらない大きさの者。そして髪の毛が有ったり、角が生えていたり、筋骨隆々だったり、丸々と太っていたりと、顔や体の作りもバラバラです。


 母オーガに連れて行かれた先は、周りの家に比べると重厚じゅうこうな作りの建物でした。

 奥に案内されると、床に敷かれた織物の上に座る白髪のオーガ待っていました。

 威厳がありながら醸し出す穏やかな雰囲気は、恐らくこの里の長老ではいかと思います。


「ほうほう。人族や獣人族が訪ねて来るとは珍しいのう」


 驚きました。白髪のオーガは私達と同じ言葉を話しているのです。


「こんにちは。お邪魔させて頂いています」


「ほっほっほ。礼儀正しい人族じゃな。まあ座りなさい」


 促されて長老オーガの周りの敷物に腰掛けます。


「私達の言葉が話せるのですか?」


「長年生きておるとの。そう言う事も出来る様になる」


「そうなのですね! それでは、お願いが有るのですが」


「もちろん。どんな事じゃ」


「ええ。こちらのお母さんオーガに、言葉を伝えて頂きたいのです」


「ほうほう」


「危害を加えようとしたのに、本当に優しくして下さいました。そのお礼を伝えたいのです」


「なるほどのう」


 長老オーガは、私達には分からない言葉で母オーガと話をしています。

 話が終わると、母オーガは私達に手を振ってくれました。伝わった様です。


「気にする事はない。我々に遭遇そうぐうした時のお主らの反応の方が普通じゃからな。オーガの種族によっては、乱暴で危害を加える者も多い……」


 それから長老はオーガの種族について色々と話して下さいました。

 私達がここに来る間に見た通り。オーガ族にも多種多様な種族が存在していて、半数以上が他種族を襲い長年争いを続けているという事や、逆にこの里に居るような穏やかで他種族との共存を望んでいる種族も居るという事を教えてくれました。

 そして、残念ながら好戦的な種族かそうでないのかは、外見での見分け方は無いそうなのです。


 そのあと長老からダンジョンに来た目的を聞かれ。「オレリル鋼」の鉱石を探しに来たことを伝えました。

 長老はその事を聞くと目をつぶり、考え事をしています。

 しばらく考え込んだ後に、腕を組みながら私達に問いかけました。


「先ずはお主らが生きて鉱石の有る場所に辿り着けるのかという疑問がひとつ。もうひとつは、あの鉱石を採取して加工ができるのかという疑問がある。それについてはどうなのじゃ?」


「はい。私達は見た目ほど弱く無いと思います。それと、加工については『クラフト』と『鍛冶』で何とか出来るのではないかと考えています」


「何と。お主は鍛冶が出来るのか」


「はい」


「そうか……。もし良ければじゃが。儂からお願いが有るのだが……」


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 実はこの里には腕の良い鍛冶職人が居なくなり、みんな困っていたそうなのです。

 長老からは「オレリル鋼」の事を詳しく教える代わりに、里の事を助けて欲しいとお願いされたのでした。


 招いて下さったお礼もしたくて、家庭の鍋から巨大な斧まで色々な物を修理し調整を施します。 

 シズさんとベニさんは手が空いた時に、里の周辺の危険な場所や荒れた土地を造成し、里をもっと住みやすい場所にして行きました。

 ハナちゃんは里の警護兵達と仲良くなり戦闘訓練に明け暮れています。

 筋骨隆々で敏捷びんしょう性の高いオーガや、見上げる様な巨大なオーガ達から戦い方をみっちりと教えて貰っているようです。


 そうして、しばらく滞在しているうちに、私達は里中のオーガ達と仲良くなりました。

 長老に「オレリル鋼」の詳しい話を教えて頂きながら、とても楽しい毎日を過ごしたのです。

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