第16話 「キコさんの帰郷」

 街では五人での楽しい生活が続いています。

 時間が空いた時は、皆でアイデアを出し合い、お店で扱う様々なアイテムを作成。

 戦闘時に使うアイテムだけでは無く、生活で使える洗濯玉や火種玉なども売っています。

 作成した便利グッズがどんどん売れ始め、私たちのお店はいつの間にか大人気に。

 今の店舗ではお客さんが入りきれなくなって来たので、隣の土地を買い取り、アイテム販売のお店を増築しました。


 そして、食事やお茶を提供するお店の方でも大人気の商品が出来たのです。

 その商品は『飴芋あめいも』。

 街の近くに有る農家から『甘藷かんしょ』と呼ばれているお芋を買って来て、試しに作ってみたら大人気になってしまいました。

 街の皆さんに食べて貰いたくて、出来る限り安価で販売したところ、あまりに売れ行きが良く『飴芋』用の店舗が必要になってしまいました。

 毎日てんてこ舞していますが、皆で楽しく過ごしています。


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 そんなある日、甘藷を仕入れに農家のお爺さんの所に行くと、隠居するから甘藷畑ごと持っている土地を買ってくれないかとお願いされてしまいました。

 甘藷が手に入らなくなるのは困るので、希望の金額を聞くと何とか購入できそうでした。

 甘藷畑を買う事には問題はなかったのですが、私達には農作業をする人手が足りません。

 畑を耕したりする事は、シズさんとベニさんのスキルで出来るのですが、流石に農作業全てをすることは……。


 人手をどうするか悩んでいると、国境の街から大勢移住して来ているから雇えるだろうと教えてくれました。

 そうなのです。理由は分かりませんが、お爺さんが言う通り、ここ最近街に移住してくる人が増えているのです。


 人手も何とかなりそうな上に、何だかとても楽しそうなので、農地を購入する事にしました。

 お爺さん達の引っ越しの準備もあるので、ひと月後に土地を受取る事にします。

 購入した土地の広さは、家の周辺にある甘藷を栽培している農地程度だと思いますが、契約書には「一千エーカー」と書いてありました。


「どの位の広さか分からないけれど、今の芋畑の広さがあれば十分だね!」


 皆でそんな話をしていました。

 私達四人は、誰も土地の広さを表す単位の事を知らなかったのです……。


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 それからしばらくして、とても嬉しい事が起きました。何とキコさんが街に帰って来たのです。

 お店にキコさんが現れた時は、嬉しくて人目もはばからず抱き付いてしまいました。


 詳しく話を聞いてみると、キコさんが嫁いだのは国境の近くの街で、三月みつきほど前から国境が閉鎖され、戦争が起きそうな雰囲気になっていたそうなのです。

 最近この街への移住者が増えていたのは、それが理由だった事を知りました。

 その街を拠点に配送の仕事をしていたらしいのですが、もし戦争が始まると命にかかわってくるので、商売の拠点をこの街に移す為に帰って来たという事でした。


 私は家をキコさんに返す為に準備を始めました。でも、キコさんに断られてしまいます。

 元々キコさんの家だと言っても、かたくなに家を返す事を断るキコさん。それでは申し訳なさ過ぎて私が困るのです。

 お互いに困りながら、キコさんの仕事の事を聞いていると、この街で仕事を始める目途めどは立っていないという事でした。

 その話を聞いて、私は素敵な事を思い付きました。

 キコさんの家と事業に必要な拠点や設備を私が購入して、私達と一緒に事業をして貰えないかお願いしたのです。

 私達が本当に人手不足で困っている事と、これから小規模だけれど甘藷畑をしないといけない事を伝えて、キコさんに協力をお願いしました。

 そして、キコさん夫妻はこの話を喜んで了解して下さったのです。

 またひとつ素敵な事が起こりました。


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 これからの仕事の事を話し合っていた時でした。

 甘藷畑に人手がどの位必要なのかを調べる為に、購入した農地の契約書をキコさんに見せたのです。

 すると、キコさんが目を丸くしていました。


「レイちゃん。この土地を全部甘藷畑にするの?」


「ええ、畑にするのは簡単に出来るので。その後の作業をしてくれる人手を探していたのです」


「れ、レイちゃん。この広さの甘藷畑に、どのくらいの人手が必要だと思う?」


「えーと、あまり広くは無いと思うから……。三人位かなぁ?」


「はぁ? レイちゃん。一千エーカーよ! 一千エーカー有るのよ。百人単位の人手が必要よ!」


 余りの事に頭が付いて行きません。

 キコさんと一緒に農家のお爺さんを訪ね、馬に乗って購入した土地の範囲を確認しに行きました。

 そして、腰を抜かすほど驚きました。購入した土地は、私達が住んでいる街よりも広い土地だったのです。

 それでも、シズさんとベニさんが荒れた土地を一瞬で豊かな農地に変えていくのを見て、キコさんは全ての土地を甘藷畑にする為の事業計画を立ててくれました。


 私は事業に関する事を、全てキコさんにお任せする事にしました。

 キコさんは国境の街から移住してくる人達に声を掛け。沢山の人に仕事と家を提供しました。

 そして私達とキコさん夫妻は、いつの間にか街で屈指の事業家になっていたのです。


 キコさんが事業の全てを受け持ってくれるようになったお蔭で、私は皆の装備を『クラフト』する事に専念出来る様になりました。

 いよいよ、理想の装備に向けた最高のクラフトの開始です!

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