第11話 「風水師」

「ほらっ! このガラクタも全部持って行けよ!」


「が、ガラクタとは何だ! この無礼者め!」


 「日の丘」と「平町」の間にあるトンボ道を歩いていた時でした。

 ある下宿の前で、背中に小さな黒い翼が生えた娘さんと、下宿の宿主が揉めていたのです。

 宿主の言葉に怒った娘さんが詰め寄りますが、簡単に突き飛ばされてしまい、弾みで倒れた娘さんの周りには、良く分からない物が沢山転がっていました。


「売れないガラクタだろうが! 下宿代が払えない文無しなら消えな!」


「ぐっ……」


 娘さんは、倒れたまま悔しそうに唇を噛んでいます。

 突き飛ばされた時にいたのか、ひざから血が出ていました。

 事情は分かりませんが、怪我が心配で声を掛けます。


「大丈夫ですか? 怪我されていますよ」


「えっ? ああ、ありがとう」


 娘さんは声を掛けられた事に驚いたのか、キョトンとした顔で私を見ていました。つややかな黒髪のとても美しい娘さんです。


 宿主に投げ捨てられた『ガラクタ』と言われていた物が、石畳のそこかしこに散乱しています。このままでは通行人に踏まれそうなので、拾い集める事にしました。

 幾つかの箱を拾い。箱から転がり出た物を手にした時でした。私の『解析』スキルが発動したのです。

 その物から自然の大いなる息吹を感じました。


「まあ! これは凄く素敵な力がありますね!」


 私の言葉に娘さんが飛び上がる様に驚きます。


「わ、分かるの! これの良さを分かってくれるの?」


「ええ。自然の息吹を感じましたよ」


 娘さんが嬉しそうに私の手を取ります。

 彼女が触れた瞬間、私の脳裏に大自然の五つの要素が渦巻きました。

 触れた事で娘さんの事を感じる事が出来たのでしょう。


「あなたは……風水師さん?」


「うんうん。そうなの! 分かるの? あなた凄いね!」


「力のある風水師さんですね」


「えっ……あ、うん。まあね……」


 娘さんは急に元気を無くしてしまいました。どうしたのでしょう。


「昔から素質は有ると言われているけど。何だか上手く力を使えなくて……」


「でも、これには素敵な力を感じましたよ」


 私は手に取った物にもう一度触れてみました。

 水の力が込められた石の様なものです。


「投げつけると水の力が発動して相手を押し流すアイテムなの」


「攻撃用のアイテムなのですね」


「でも、発動したりしなかったりで……。全部返品されてしまいました」


 娘さんの話を聞き。原因が何か分かるかも知れないと思い、そのアイテムをしっかりと調べてみます。


 しばらくすると、不安定な状態になる欠点を発見できました。

 それはまさに、鍛冶屋の大将に言われていた『クラフト』の深味の問題。

 娘さんは『クラフト』のスキルを持っていないから、そこに思いが至らなかったのでしょう。


「ねえ。あなたの商品を私と一緒に作りませんか?」


「えっ?」


「私の『クラフト』スキルと、あなたの『風水』スキルを合わせると、とても良い商品を作れそうなの」


 娘さんは、きつねに摘ままれた様な顔をしています。いきなりの提案に戸惑っている様でした。

 納得させないといけないと思い。近くに落ちていた石ころを拾い、つちで『クラフト』します。石は丸くなりました。


「これに水の力を込めてくれますか?」


「え、ええ」


 娘さんが何かをつぶやきながら石に力を込めます。

 そして、出来上がった石を受取り鎚で軽く調整。


「見ていてね」


 その小さな石を近くの石畳に投げつけました。

 石が弾けると一瞬だけ水が現れて石畳の上を流れて行きます。

 水が流れた箇所だけ洗った様にピカピカになりました。


「なにそれ! 凄い!」


 ----


 娘さんの名前はベニさん。天狗てんぐ族の亜人あじんだそうです。

 彼女もお店の二階に住み。お店の手伝いをしながら、私と一緒に便利アイテムを作っています。


 ベニさんの風水商品は次第に人気が出始め、お蔭でお店の売上も更に順調になりました。

 この『風水師』のベニさんと『精霊使い』のシズさん。

 二人との出会いが、私の『クラフト』スキルを飛躍的に向上させる事になったのです。

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