第10話 「キュバスサロンのアヤセ」

「それでは町長様、目隠しをお取りになって下さい」


「おおー! 今日はこれまた可愛い娘が来たな。ほら、アヤセよ。料金じゃ」


 薄いレース以外には何も身に着けていない少女を前に、セロリィ嬢の父ズッキーは興奮が抑えきれないのか、息を荒くしている。

 アヤセと呼ばれた女は金貨一枚を受取ると、うやうやしく頭を下げて部屋を後にした。


 この女は『キュバスサロン』のオーナーだ。女性相手の『インキュバス男性淫魔サロン』と男性相手の『サキュバス女性淫魔サロン』を経営している。


「ズッキー町長も好き者だねぇ。五日も続けてサキュバスを買うとは……。まあ、同じサキュバスが相手とは思ってもいないだろうけれどね」


 閉めたドアを見ながら、アヤセは呆れたように口の端に笑みを浮かべていた。


 アヤセは元々は売春宿の女だ。

 馴染なじみの客からサキュバスの面白い特徴を聞き、彼女の持つスキルが使えないか試したところ狙いが見事に的中した。

 そしてその事が彼女に巨万の富をもたらしのだ。


 彼女は発見したキュバス達の弱点を利用した。

 キュバス達の弱点は『聖印せいいん』であり、それをきざむ事により、生かす事も殺す事もできる。

 彼女の持っていたスキルは『授印じゅいん』。触れた相手に様々な影響を及ぼす『印』を刻む事ができ。また逆に消し去る事もできる。


 キュバス達は尻尾に『服従の聖印』をほどこされると、彼女の従順な下僕になる。

 彼女は下僕にしたキュバス達に、種族の持つ能力や本能についての全てを語らせた。

 その情報を元にある契約を持ちかけ、キュバス達は喜んでその契約を受け入れた。

 契約のお蔭で『服従の聖印』を使う必要は無くなり、彼女はキュバスの一族と堅い絆で結ばれ、安定したキュバスサロンの経営が可能になったのだ。


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「さあ、こっちにおいで」


 少女は手招きされると、恥ずかしそうにズッキーの傍へと歩み寄った。

 ズッキーはいやらしい笑みを浮かべながら、薄いレース越しに少女の膨らみかけの胸を触る。

 そして、おもむろにすそから手を入れ、隠れる物が殆ど無い下腹部を指でなぞり始めた。


「おじさん止めて。私はおじさんが嫌いなの」


「そうかそうか。嫌いか」


 ズッキーはニヤニヤしながら、少女が身に着けていたレースを脱がせた。大人に成りかけの年頃に見える少女の裸体が露わになる。

 少女は『買われたから仕方が無い』といった屈辱的くつじょくてきな表情を浮かべ、俯きながら顔を背けた。

 ズッキーはその表情を嬉しそうに眺めながら、下卑げびた笑いを口の端に浮かべる。

 嫌がる少女の反応を楽しみながら、指先で少女の体をまさぐり続けた。


 少女は裸体をもてあそばれながら、ズッキーを口惜しそうににらんでいる。

 だが、この表情こそズッキーが少女に望む表情であり、彼の性癖を更に強く刺激した。


「くふふ。可愛らしいのう」


「ふんっ! 汚らわしいクソ親父! 気持ち悪くて何も感じないわ」


「ぐふふっ。そうか? 体は反応しておるぞ」


「……違うもん」


 ズッキーは少女のその言葉で興奮を抑えきれなくなり、少女を抱き寄せベッドへと押し倒した。

 少女は身をすくめて嫌がる素振りを見せたが、ズッキーに力ずくで体を開かされる。

 しばらくすると、少女の押し殺したような嬌声きょうせいが部屋に響き始めた。


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 翌日の昼過ぎにアヤセはズッキーの館へと少女を迎えに来た。

 ズッキーは直前まで少女との行為に耽(ふけ)っていたのか、下腹部をだらしなくさらしたままだ。


「町長様。この娘は如何いかがでしたか?」


「ああ、とても良かったぞ。わしの事を嫌がっておったが、いとしんでやったらすがり付いて腰を振っておったわ。可愛らしいもんだ。そのうち自分から儂の所に行きたいと言うかも知れんな」


「流石は町長様。では、その時は宜しくお願いします」


「ああ分かった。また可愛がってやるぞ。それはそうと……今日も良いか?」


「はい。ありがとうございます。流石は町長とギルドマスターをしていらっしゃる名士様でございます。絶倫でございますわね」


「このドリンクを飲み始めてから底なしだ。アヤセは良い精力剤を持っておるな」


「有難きお言葉。それではこの娘をサロンに連れ帰った後で、別の娘を連れて参ります」


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 少女の姿をしていたサキュバスは、サロンに戻ると妙齢みょうれいの女性の姿に戻った。

 キュバス達は手を触れる事で心を読み。相手が望む姿に変化し、秘めた性癖を満足させる能力を持っている。

 いわゆる『幻惑』と『催淫さいいん』だ。


 アヤセは訪れる度に、先ずはズッキーに目隠しをさせ。手を触れたサキュバスに彼がその時に望んでいる女の姿へと変化へんげさせてから目隠しを外していたのだ。

 実は同じサキュバスを相手にしているのだが、彼は別の女性を手に入れたと思っている。


「キュリオよ。これからどうしたい?」


「そろそろ、子が産みたいと思います」


 キュリオと呼ばれた娘は、笑顔でアヤセと話している。

 そこには従属関係は存在しない。家族の様な優しい雰囲気が漂っていた。


「そうかい。だったらこれからズッキーの相手をして、子を宿し里に帰ると良いよ」


「はい、アヤセ様。ありがとうございます」


「元気でな。良い子を産み育て。また戻っておいで」


 アヤセはキュリオの尻尾を掴み『不妊』の聖印を解いた。


 キュバス達は同族間で子を成すことが出来ない。

 キュバス達の生きる目的は、他の種族と同じく生殖による種の保存。

 サキュバスは人族の男性の精を貰い、子を宿しキュバスを生む。インキュバスは人族の女性に精を与え、自分の子を産んで貰う。

 キュバス達はそのために『幻惑』と『催淫』を使い、人族に望まれながら生殖行為を行うという本能を持っているのだ。


 アヤセは多くのキュバス達と共に過ごし。このキュバス達を生み出したのは、間違いなく『人の業』であるという事を確信していた。

 キュバス達は生殖行為で人族を喜ばせる事に、最大の幸福を感じる様に創造されている。むしろ生殖行為が出来ない事が、身を焦がす程に苦しいのだ。

 これほど人族に都合の良い種族は居ない。

 そして、人族とは違う種族であるはずなのに、お互いに子を成す事ができ、特にインキュバスの精で普通に人族の子が生まれる事が、人族がキュバス達を創った紛れもない証拠だと思っていた。


 アヤセは悲しいさがを背負ったキュバス達を守る活動をしている。

 キュバス達が人族に都合よく消費されない様にサロンを作り。そこでキュバス達が稼いだお金で、キュバスの里や村を守る。

 そして、本人たちの希望に合わせて、与える『聖印』の種類を変え、キュバス達が望む幸せを与えているのだった。


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「町長とギルドマスターがあれでは、この町もそのうち傾き始めるね。そろそろ次の街に移動することも考えないといけないね……」


 子を成せる事が嬉しいのか。アヤセの横を歩くキュリオは、微笑みながら上気した顔をしている。

 これから一晩中ズッキーを楽しませ。彼が役に立たなくなるまで精を吸い尽くし。そして子を成すのだろう。

 二人は再びズッキーの屋敷へと入って行った……。

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