第9話 「精霊使い」

 今日はポコとお散歩に出ています。

 この街の住居は壁に漆喰しっくいを塗っているので、見渡す限りの白い家が丘の上を幾重にも重なっていて、とても綺麗なのです。


 「夕日の丘」側の高い所行くと城壁の外の景色が一望できて、遠くまで続く平原と、深い森の間をうようにして私とポコが荷馬車に乗って来た街道が見えるのです。

 私はこの場所で夕日を見ながら、次第に家に明かりが灯るのを見るのが大好き。

 明かりが灯る家々で幸せな暮らしが営まれているのかと思うと、とても幸せな気持ちになるのです。


「さあ、そろそろ帰ろっか」


「うん」


 抱っこしていたポコが、元気にうなずきます。

 可愛くてほっぺにキスをすると、ポコも私の頬にキスしてくれました。

 私はポコが大好き。ポコもきっと私が好き。

 長時間抱っこをすると下腹部が熱くなり、一緒に眠るとポコとの淫靡いんびな夢を見てしまう事に罪の意識を感じてしまうけれど、それはポコのインキュバスの能力だから仕方が無いと自分に言い聞かせて過ごしています。


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 陽が暮れてお店に戻ると、ハナちゃんがお客さんの席に座って楽しそうにしていました。そのお客さんの手元で何かがキラキラしています。

 私に気が付いたハナちゃんが嬉しそうに手招きをするので、ポコを連れて席に座りました。

 すると、お客さんの手元から人の形をした光が飛び出して、輝きながら踊り始めたのです。


「あ、精霊さんだ!」


 ポコが嬉しそうに覗き込んでいました。


「あら、良く分かったわね」


 丸めの可愛い耳が付いたお客さんが、喜ぶポコを撫でています。

 私は精霊を見たのは初めてでした。


「私の名前はシズ。精霊使いです」


「綺麗ですね。シズさんは、きっと凄い冒険者なのでしょうね」


 ハナちゃんが尊敬するような眼差しでシズさんを見つめていましたが、シズさんは直ぐに悲しい顔をしました。


「いえ……。精霊たちを上手く使役できなくて、いつも直ぐにパーティを首になるのです」


 それから、シズさんの身の上話を聞きました。

 シズさんはたぬき族の獣人。彼女は『精霊使い』のスキルを持っているのですが、精霊達を上手く使役しえき出来ないらしいのです。

 全く攻撃にならなかったり、逆にパーティを全滅させてしまいそうなほど強力な攻撃になってしまったり……。

 結局いつも失敗ばかりで、いつの間にか雇ってくれるパーティが無くなってしまったそうなのです。


 悲しそうに語る彼女の手元で美しく踊る精霊達。

 その輝く精霊達を見つめながら、私はある事がひらめきました。


「ねえシズさん。その精霊たちをお店の中で楽しく遊ばせることはできますか?」


「ええ。それでしたら出来ますわよ」


 シズさんが手を振ると、色とりどりの精霊たちが飛び出し、お店の中をキラキラと輝きながら飛び回っています。

 私はその姿を見て閃きが成功する事を確信しました。


「シズさん。私のお店で働いてくれませんか? 精霊達が楽しそうに踊るお店って、何だか素敵だから」


「こんな私を必要としてくれるのですか。嬉しい」


 シズさんの表情がパッと明るくなりました。


「是非お願いします」


「ありがとうございます。でも、あの……お願いがあるのですが」


 シズさんの耳が悲しそうに倒れます。どうしたのでしょうか。


「なんでしょう?」


「このお店の床で構いません。寝泊りさせて頂けませんか。お金が払えなくて宿を追い出されてしまったので……」


「シズさん。そんな事は心配しなくても大丈夫ですよ。お店の二階に部屋が有りますから、そこに住んで下さいな」


 話を聞いてシズさんは泣き出してしまいました。

 実は職も宿も無くなり、お金も底を付いて途方に暮れていた時に、不意に現れた精霊がこの店に導いてくれたそうなのです。

 窓の外から覗くと、可愛い猫耳の女の子が楽しそうに働いていて、暖かな明かりが溢れ出すお店がとても幸せな場所に見えたのだそうです。

 シズさんはこの幸せそうなお店で一杯のお茶を楽んで、明日は売春宿に身売りをしようと思っていたと話してくれました。


「『おぼこ処女』は高く買ってくれるそうなので……」


 シズさんの「おぼこ」発言に、私とハナちゃんは顔を見合わせます。


「ハナちゃん。私達も高く売れるのかしら?」


「うーん。まあまあじゃニャイかしら?」


 私達は三人で大笑いして、ポコを囲んで楽しい夜を過ごしました。

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