第5話 「街へ」
ポコと野宿をしながらの旅が続きます。
小川で水を汲み、森で木の実やキノコを採り、夜は一緒に眠りました。
獣はインキュバスを怖がるのか一度も襲われません。
その代わり、毎日
幾日も野宿をして、遠くに見えていた山が近くなって来た頃。遂に人の整備した街道を見付けました。
「ねえ、ポコ。この道をどっちに歩く?」
「えー。じゃあこっち!」
「どうして、こっちなの?」
「うん。レイと繋いでいる手の方だから!」
「うーん。ポコは可愛いなぁ」
可愛らし過ぎて、思わずポコを抱き締めてしまいます。
街道をしばらく歩くと、道の脇に荷馬車が止まっていました。どうやら片方の車輪が外れている様です。
近くまで行くと、荷台の上に
「大丈夫ですか?」
声を掛けると、女性は驚いて飛び上がってしまいました。
「ちょ、ちょっと……何でこんな所を歩いている人が居るの?」
「驚かせてごめんなさい。知らない土地に飛ばされてしまって……」
「飛ばされたって、あなた冒険者か何かなの?」
「ええ、まあ。そんな感じです」
「そうなんだ。私は荷馬車の車輪が壊れてしまって、ここで立ち往生しているの。相方が馬で助けを呼びに行ってるのよ」
「それは大変ですね」
壊れている荷馬車を見て、私はある事を思い付きました。
「あのー。もし良かったら修理しましょうか」
「あなた修理ができるの?」
「分かりませんが、試してみても良いですか」
「ええ、やってみてよ。まあ、この壊れ方は無理だとは思うけれど」
壊れた荷馬車の状態を確認してみると、車輪が大きく破損して車軸の方も折れ曲がっていました。
傍からは修復が難しい様に見えますが、これならば何とかなりそうです。
『クラフト』スキルを使って先ずは車輪の修理から。
壊れた部分に破片を集め、
次に車軸の曲がった部分を叩くと直ぐに真っすぐになりました。実は金属の方が加工は簡単なのです。
「わお! あなた凄いスキルを持っているのね」
横で見ていた女性が驚いてくれました。
今まで物を修理して驚かれた事はありません。いつも急かされ、遅いと
次は車軸に車輪を付けます。
地面に着いてしまっている荷馬車の本体を持ち上げないといけません。
先ずは荷馬車の下の地面を鎚で叩き、徐々に地面の高さを上げて行きます。
丁度良い高さになった所で、車輪を車軸に通して留め金を修理します。
そして、荷馬車を持ち上げていた土をひと叩きすると、土は崩れて荷馬車の修理は完成です。
「本当に修理できたのね! 馬を繋ぐから、ちょっと待って居てね」
女性は馬を荷馬車に繋ぎました。
二頭立ての馬車でしたが、片方は助けを呼びに行っているそうです。
それでも上手に繋げて、何とか動かす事が出来る様になりました。
「お礼もしたいから、街まで乗って行って」
「宜しいのですか! ありがとうございます」
ポコと一緒に荷台に乗せて貰いました。
偶然、車輪が壊れた馬車に出会い、『クラフト』スキルで修理をした事で、安全な街まで行く事ができるの様になったのです。
馬車に揺られながら、色々な話をしました。
女性はキコさんという名前だそうです。
住んで居た町の事を話しましたが、どうやら遠く離れた隣国の様でした。私は本当に遠くまで飛ばされていたのです。
キコさんから所持金や宿の話を聞かれ、何も持っていない事を話すと、家に泊めて下さる事になったのです。
本当に何から何まで助けて頂いて、感謝の気持ちでいっぱいでした。
見知らぬ土地に置き去りにされた私とポコは、何とか人の住む街へと辿り着けそうです。
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「ええっ! その子インキュバスなの? 私もう直ぐ結婚するけれど、大丈夫かしら……」
「ポコは成長しない子どものインキュバスだから大丈夫です。一緒に寝ていても、ちょっと夢を見る程度です」
「そうなのね。あなたがそう言うなら信じるわ。どういう夢を見るのか、少し興味はあるけれど……なんてね!」
キコさんは、明るくて楽しい人の様です。
お金の事も心配してくれて、街で鍛冶屋の仕事を紹介してくれると言われました。
途中で相方さんも戻って来て馬車は二頭立てに戻り、そのお陰で陽が暮れる前に街に到着できそうです。
街に到着し城壁の門から中に入ると、そこは驚くほど大きな街でした。
丘に挟まれた平地には市場や大きな建物が立ち並び、丘の斜面にはぎっしりと家が建ち並んでいます。
街のあちこちに
キコさんの家は丘の中腹に建っていて、斜面を利用して二階建の様な感じになっていました。
一階の平らな屋根が二階の入り口の前に広がっていて、物干しやテーブルが置いてあります。
そこから見える夕暮れ時の街の景色はとても綺麗で、これまでに見たことが無い幻想的な美しさでした。
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