第4話 「ポコ」

 翌日は崖を下り川を渡り、上りの崖の途中で一泊。

 次の日に反対側の平原に辿り着きました。

 果てしなく広がる平原と森が目に入ります。

 どちらを進もうか迷いましたが、平原だと迷う事もなさそうなので、そちらを歩くことに決めました。


 何処までも続く平原は、いくら歩いても景色は何も変わりません。

 遠くに見える山は遠いままです。

 こんなに見晴らしの良い場所だと、獣にでも見つかると終わりですが、平原を走る風が心地良くて、楽しくて仕方がありません。


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 歩き続けるうちに段々と陽が暮れて来て、周りは闇に包まれて行きます。

 どこで歩くのを止めようかと思っていると、朽ち果てた村の様な場所に辿り付きました。置き去りにされて、初めて人の作った物に出会えたのです。

 人が住んでいない秘境に飛ばされたのかも知れないと思っていましたが、もしかしたら、何処かで人に出会えるかも知れません。


 村の中を見て回りましたが、やはり人の気配はありませんでした。随分と昔に放棄された村の様です。

 壁がしっかり残っている家を見付けて、今日はそこに泊めて貰う事にしました。


「お邪魔します。今日はここに泊まらせて頂きます」


 もちろん返事はありません。火を起こすような物は持っていないので、月明かりの下で屋根の抜け落ちた家の隅で眠る事にしました。

 でも、壁があるだけで何だか安心です。


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 夜中にいやらしい夢を見ました。私は異性とそういう関係になった事が無いので、曖昧あいまいな感じでしたが、とても淫靡いんびな夢を見た気がします。

 朝、目が覚めても余韻で少し呆然ぼうぜんとしていました。何故、急にこんな夢を見たのでしょう。


 不思議に思っていると、何かを抱きしめて寝ていた事に気が付いたのです。

 驚いて確認すると、尖った耳を持つ男の子でした。

 この子は、いったい何でしょう?

 何となく可愛らしかったので、頭を撫でてみます。


「むにゃむにゃ……」


 可愛いです。頬を軽くつまんでみます。


「うーん」


 可愛いです! あれこれ触っていると、男の子が目を覚ましました。


「あなたは、だあれ?」


「……うんとね。ポコ」


「ポコっていうお名前なの?」


「うん。そう」


「どうして、ここに居るのかな?」


「寂しかったから」


 ポコという男の子がしがみ付いて来ました。可愛くて頭を撫でてあげます。


「ポコは、ここに住んでいるの?」


「捨てられてから、怖くてこの辺にいたの」


「捨てられたの?」


「うん。役立たずだから」


 ポコは悲しそうな顔をしました。私は何度も頭を撫でてあげます。


「どうして子どものポコが役立たずなの?」


「僕はこれ以上成長しないから。ほらこれ」


 ポコが後ろを向くと、丸い先っぽの小さな尻尾しっぽが見えました。


「僕はインキュバスなんだけどさ。呪いの尻尾だから、大人になれないんだ」


「呪いの尻尾?」


「うん。普通は三角に尖っていて、どんどん大きくなって、体も成長するんだ。そしたら、大人のインキュバスになれて、人族の女性を喜ばせる事が出来るんだって」


「う、うん」


「でも僕は呪いの尻尾で、これ以上成長しないから要らないんだって」


「そっか。お姉さんも、要らないから捨てられちゃったんだよ」


「そうなの! 僕達捨てられっ子同士だね」


 ポコが笑っています。可愛いから、また抱きしめてしまいました。


「ポコはお腹空いてない?」


「お腹空いた!」


 リュックから食料を取り出して、ポコと一緒に食べます。

 ポコは耳が尖っているだけで、見た目も肌の色も人族の子どもと変わりません。


「ねえ、お姉さんは、これからここを離れるけれど、ポコは付いて来る?」


 ”付いて来ない”と言うかも知れないけれど、聞いて見ました。


「行くよ! 置いて行かないで……」


 ポコが私にすがり付いて来ます。私は涙目のポコを抱き締めました。


「私の名前はレイよ。宜しくね」


「うん。ポコはレイが大好き」


 とても幸せな気分でした。しいたげられる経験しかない者同士が、やっと安らぐ相手を見付けたのです。


 でも、私の胸にすがり付くポコの頭を撫でていると、何故だか下腹部が熱くなって来ました。そうでした、ポコは子どもとはいえ、やはりインキュバスなのです。今朝の夢もポコを抱きしめていたからでしょう。

 慌てて起ち上がり、ポコの手を引いて歩き始めました。

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