第3話 「見知らぬ土地」

 私は見た事も無い平原に置き去りにされ、途方に暮れていました。

 背負ったリュックに入っているのは、食料が少々と修理に使う道具類だけ。

 他には短い作業用の短剣が一本あるだけでした。

 獣や魔獣に襲われたら、ひとたまりもありません。


 色々考えた末に、取りあえず座ってパンを食べる事にしました。獣に襲われて死んでしまうにしても、美味しいパンを食べないままだと、後悔するかも知れないと思ったからです。

 そして、美味しいパンを食べながら、ある事に気が付きました。


「わたし自由なんだ……」


 私には何故か道端で奴隷商人に拾われる前の記憶がありません。拾われた後は、そのまま奴隷として生きて来ました。

 でも、追放されたお蔭で私は自由になったのです。生きて行けるか分からないのにウキウキしています。

 その場に大の字になって寝転びました。もう、たれる事も矢を射られる事も、魔法に苦しめられる事も無いのです。何て素敵な事でしょう。

 嬉しくて涙が溢れて来ました。




 私はそのまま居眠りをしていた様です。こんなに安心して眠れるのも初めてでした。

 気持ち良く目を覚ました後は、取りあえず周辺を探索する事に。

 平原は森に囲まれていました。獣に襲われる心配はありますが、森に踏み込まないと何処にも行けないようです。

 森で迷わないか不安でしたが、少し歩くと森は直ぐに途切れてしまいました。

 途切れた先は崖で、縁から覗き込むと切立った崖の底に大きな川が見えます。

 これ以上進めないので、仕方なく崖沿いを歩く事にしました。


「あれ? ここ元の場所だ……」 


 私が置き去りにされた場所は、切立った崖に囲まれた、さほど広くもない土地だったのです。

 大きな川に隔てられた先には同じように崖があり、その向こう側には広い平原と山が見えます。

 崖を下り川を越え、今度は崖を上って向こう側に行かない限り、ここで野垂れ死にするしか無さそうです。

 普通だとここで諦めますが、私にはある考えが浮かんで来ました。

 『クラフト』スキルを使って、崖に足場を作りながら降りて行けば良いのです。

 どの位の時間が掛かるのかは分かりませんが、私は生きる為に頑張る事にしました。




 『クラフト』スキルを使い崖の壁面をつちで叩くと、少しずつ足場が出来て行きます。

 落ちて死んでは元も子もないので、一段一段丁寧に足場を作って行きます。

 そして、崖の途中まで降りたところで、日が暮れてしまいました。

 足場を広く作り、今日はここで野宿する事に。


 切り立った崖の中腹ですが、独りでゆっくりと食事をして、足場で横になって空を見上げると、崖に挟まれた空に美しい星がまたたいていました。

 崖下から川のせせらぎが聴こえてくる中で、私はいつの間にか眠っていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る