19日目
18日目、田中さんのせいで家には居られなくなった……私達は家を出る決意をした。
理由は扉の修理など数時間では出来ない。
外壁も破損していたし、車を退けて扉をチェーンソーで切り、机と食器棚も切らないと出せない状態だったからだ。
仕返しはした……私達より暮らせない状態にしてやった……
荷物も当然家の中だろうから、引火した今もう後の祭りだ。
私達は別道路と交わる付近で止める……目前に制圧隊の車が来たからだ……
「止まりなさい、前の車!此方は制圧隊3番隊……………」
話している最中に私達が手を振って『非感染者』だと知らせる。
すると制圧隊の卜部さん(康二叔父さんの後輩)と戸高さん(康二叔父さんの先輩)がトラックから降りてくる。
「貴方達は!如何したんですか!?この荷物……何があったんですか?」
私達は朝からあった一連の事情を話す。
「何ですって?家を爆破した?それは流石にやりすぎです!まぁ気持ちはわかりますし、理解は出来ますが……何はともあれ、此処は危険です!避難所へ移動しましょう!」
今日二人は物資を配給する係ではなく、避難誘導をする係になっていると言う。
制圧隊の被害も多く、人手が足りないそうだ。
45分ほど車で走り、続々と避難してくる人が居る。
私達は車で避難所側まで行くことになった。
小さな子供達二人で逃げている子達を発見したので、私達は車に乗せた。
食べ物を探しに出た親は、家に帰ってきて居ないそうだ。
可哀想だったので、持っていたカンパンと水を二人に渡す。
これが関口さんが言ってた『繋がり』だと私は信じている。
「おねぇちゃん、ありがとう!雅之、食べな!!」
「おねぇちゃんありがとう!お兄ちゃんこそ食べなよ?昨日も食べてないじゃん」
私はそれを聞いて泣いてしまった。
バッグに入っていたチーズバーを半分に折って二人に渡す。
「とりあえず、避難所に着く前に食べちゃいな!誰かに見つかったら食べられちゃうかもしれないから。今カンパンの数を均等に分けるからね?それまでそれ食べてて!」
水がないと食べづらい物だが、子供達にはチーズバーは好評だ。
私は小袋を取り出して中に入れてから二人にカンパンを渡す。
彼らは半分くらい食べると、カバンの中にしまう……
しっかりした子達だ……翌日の食べ物の心配をこんな小さい子がしている……
爪の垢を煎じて田中さんに飲ませたい。
切った爪を口に放り込んだ方が、よく聞いて良いかもしれない!
そう思っていたら、駐車場に着いた。
此処からは、トラックに乗って移動らしい。
「じゃあ皆さん、詰めて頂けますか?まだ人が乗りますから!」
私達は万が一の時に車が出しやすい場所に止める。
国道に面して止めると出せなくなると叔父が言っていた事を思い出して、周辺の脇道に逃げやすい道へ置く。
既に田中さんの件があったので、安全に安全を重ねての考え方だ。
私達はトラックに乗って避難所へ向かう。
そこはかなりの人間で溢れかえっていた。
喧嘩をしている人もいて、良い環境とはとてもでは無いが言い難い。
状況が状況だけに多少は我慢しないとならない……最悪おじさんの店に行くのが良いかもしれないが、それは最終手段だ。
何故ならその店は群れが来る方向に店があるからだ。
危険を買ってそこに行くには、リスクが多すぎる。
避難所内に通されると、武器を没収されるかと思ったがされなかった。
しかしテープを貼られてそれが破かれた場合、避難所には置けないと言われた。
周りの人も武器を所持しているが、万が一の時に兵に加わるための様だ。
私達は支給品を受け取ってテントへ向かった。
ゆっくり食べる時間があったので、食べることにした。
取っておきたかったが、2/3は絶対に食べておく様にと卜部さんに言われた。
理由は残りを盗難されても、2/3を食しておけば、少しは体力が持つからだと言う。
当然残りは取っておくことを勧められた。
『食料は無限ではない』と言われたので『ああ!そうか』と理解した。
予報より早く雨が降り出しそうな雲行きになった……
14:30に午後のトラックが早めに引き上げてきたが、口うるさい声がトラックから聞こえる……困ったことに田中信子だった。
神様は何故同じ避難所に彼女を寄越したのかと思いたくなる。
「アタシの家が破壊されたんですよ!!何で黙ってるんですか?犯人は石川家です!見つけて罰してくださいよ」
「残念だがそれは出来ん、何度言わせる。いいか?その人がどこにいるかも分からない。探しに行けと言われても我々には任務がある!!」
何やら揉めているが、多分私たちをどうにかしたいのだろう……此処にいることをなるべく知られたくはない。
しかし卜部さんが彼女と会った瞬間、田中さんは配給問題を言い始める……
卜部さんはめんどくさそうに、『だったらあなたも配給返しますか?そしたら僕が言ってきます!此処の現状見てください。彼らに1日でも多く配給したいんですよ!』と言うと、上官から怒られていた。
問題は困ったことに続いていた。
その田中さんのテントは私たち家族のテントから、すぐ5つ横の単身専用テントでかなり近かった。
バレなかったのは、14:30から雲行きが怪しくなったので皆テントに戻ったからだった。
雨が降り始めて、外にいるのが皆怖かったのだ。
携帯のバッテリー温存の為に使えず、思った以上に暇すぎる避難所生活1日目だった。
翌日19日目に早くも田中さんは問題を起こした。
横のテントにいた子供達の『カンパン』をよこせと喧嘩をし始めたのだ。
その子供達は、当然私達と来た兄弟だった。
「ガキが!小さいんだから、そんなに体力消費しないでしょう!?さっさとそれを私に渡しなさいよ!!」
「やめろよ、おばさん!!これは弟のだろ?自分で探してこいよ。何で貰った分を食べておいて人のを取ろうとするんだよ!」
御もっともな子供の意見に周りが『やめなさい』と止めに入るが、そこでも持論を言う。
「こんな小さい子供が、私に比べてお腹が空くわけないじゃない!そもそもそれは支給品でしょう?だったらわたしにも食べる権利があるのよ!!だからアンタ達は黙っててよ」
すると不良の様な輩まで混じり始める。
「馬鹿かババァ!?これは俺達のモンだよ!!お前はダメ」
そう言って子供達から大の大人がむしり取ろうとする。
私はショットガンを構えて……
「やかましい。子供相手に恥ずかしくないのか!いいか?それを奪ったらお前達の顔を腐ったトマトみたいにしてやるから!」
そう言ってから私は銃を構える。
しかしすぐに静止する様に言われる……既にこの状況を知らせてくれた人が居た様だ。
「そこの民間人、辞めなさい!!他の人が怯える。それにその武器はオモチャではない!!本物だ。」
声の主は卜部さんを怒っていた、光浦という上官だ。
「お前たち二人はまた問題を起こしたのか?それも相手はこんな子供に……なんと常識が無いのだ。毎日手を煩わせて、昨日は暴行事件で今日は脅しか?お前達には何の期待もできないのが良く分かった。いい加減うんざりだ!何処でどう死のうとお前達の自由だ。だが、此処にいる事は許可しない。前の勧告通り出てってもらう!!林と国松コイツらを避難所の外へ放り出せ!戻ってきたら直ちに射殺しろ!」
「はい!!」
男二人は自衛隊員二人に銃を向けられる。そのあと他の隊員に手錠をされて連行された。
戻ってくるだけで射殺というのはあんまりだが、どうやら昨日は暴行を誰かにしたらしい……
安全を脅かす存在であり、報復行動に出る可能性もあるのだろう……
私達でさえ此処にくる前の家を吹っ飛ばして来たのだから、人間怒ると何をするか分からないのは理解している様だ。
「良いかね?諸君。此処は避難所だが、そのテントは無限ではない!!数だけでは無い、『設置できる場所』もだ。問題を起こす輩はいなくて結構!!助ける筋合いは此方にはない。自衛隊だから助けろと君達は言うが……助けても協力的ではなく問題を起こし、食料をただ食い漁る輩より、もっと助けるべき人間は沢山いる。正義感から助け合う輩が多数な!」
そう言ってから田中さんを睨みつける、光浦さん……
「田中信子さん、家が爆破されたと?」
「そう!そうよ!?その女に!だから私は……」
「うるさい!!近隣に聴き取り調査に向かわせた結果、貴女の為人を聞きました。初めにこの家族へ仕掛けたのは貴女だ!これ以上迷惑をかけ、この避難所の秩序を乱すのであれば、貴女も彼等同様に即刻ここから出ていって貰う。この緊急事態が終わったら家の件は裁判でも何でもするが良い!だが此処での身勝手で秩序を乱す事は私が許さん!」
一喝して黙らせた光浦さんは、卜部さんの上官らしい振る舞いだった。
秩序がなければ、避難所の危険は増す……
だから本来言ってはいけないことでも、言うべき状況であれば言うと決めているのだろう。
それが避難所全体のためになればだが……
しかし私もそういう意味では秩序を乱した一人だ……謝るべきだろう。
「光浦さん……銃を構えてすいませんでした……反省しています」
「貴女の声に聞き覚えがある……『さいちゃんパパさん』の娘さんですね?貴女の行動は非常に素晴らしい!隊員は貴女の情報で危機を免れた……ありがとう。だが、貴女の言う通り武器を構えて脅すのは言語道断。この避難所にいたいのであれば武器を此方へ!」
悲しい現実だ……武器を持って脅したのは事実なので仕方ない……
「ここを出る場合は返却されるんですか?これは叔父さんの選んでくれた形見です!!」
「当然返します!貴女が別方法で問題を訴えていれば、この銃を回収などはしません。万が一引き金を引いたならば相手は死にます。それも貴女はご存知でしょう?それに……その銃は『ショットガン』です。相手一人ではすみません、周りを巻き込んでしまう……と考えませんでしたか?」
その通りだ……私はポーチから弾を取り出して一緒に渡そうとすると……
「弾は持っていなさい。いつ何時これを使う時が来るかはわからない。あくまで銃は預かるだけですから!田中さんはくれぐれも問題を起こさない様に!彼女が武器がないからと言っても、周辺住民へ貴女からの害があると判断した場合の『射殺許可』は出ているんですよ?我々にはね?」
光浦さんの淡々と話す最後の言葉が怖く感じた……19日目だった。
自衛隊員(第29地区避難所)
光浦 梶典 (避難所管理責任者)
自衛隊員(地区別・制圧隊・特殊任務4課)三番隊
卜部 勝也(康二叔父さんの後輩)
戸高 尚哉(康二叔父さんの先輩)
田中 信子(危険思想持ち・前科2犯)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。