18日目

 

 ウチの玄関が破壊された……食器棚は倒れ机も壊れて、壁には折れた机の足が変な位置に刺さりそれが引っ掛かりもう机も棚も動かせない。



「ザマァみろ!!コレでゾンビはお前の家に入り放題だ!さっさと食料置いて出て行け!!」



 田中信子が、とんでもない人と言う話は本当だった……


 父親は銃を持ち玄関へ向かうが、ママも私もそれを止める。



 殺されそうになったのだから、正当防衛を主張したいのもわかるし、自分勝手な振る舞いに怒りが抑え切れないのもわかる……



 でも、それどころでは無いのだ……今日の予報は15時から雷雨だ。


 既に7時になりかけている……8時間後には昨日と同じ事が起きるのに、玄関が壊れて出入りができる状態のこの家になど居られない……



 殺してやりたいのは私も母も同じだ。


 でも今は彼女を咎めるより優先すべき事がある。


 彼女は家に逃げ帰る……



「パパ!殺してやりたいって気持ちはわかるけど!今はダメ!雷雨が来るから!昨日と同じ状況になるよ!!」


「そうよ武さん!今はダメ!!逃げて安全を確保しないと!!さいちゃんの言う通りよ!今彼女を殺して警察が来たらそれこそ大変よ!」



「しかし!……あのクソ女!!」



「私にいい考えがあるわ!!大丈夫!!」



 そう言ったママは台所から包丁を持ってくると、彼女の車のタイヤをパンクさせる……



「コレでこの車は使えないわ!あとはあの女がこの家に入って来た時に、あの家のプロパンガスを撃ち抜けばあの家は爆発炎上で、住めなくなるわ!あの女が此処にいれば私たちの後は、多分小田さんよ!そのあとは周りにヒルの様にくっついて吸い尽くすまで離さないはずよ!」


 ママは完全に戦闘態勢だ……やられたらやり返す女だから……


 目をギラギラさせながら話を続ける……今から話す此処が核心なのだろう。



「アナタ!あの女の目的はここの食料よ!でもこの家の食料は私達しか取り出せない!実はね、さいちゃんの指紋登録を昨日したの!だからあそこを開けられるのは今はさいちゃんだけよ!」




「成程!ならば飯は取れず中にも入れない……ザマァみろなわけか!!」



 パパがそう言った時、壊れた玄関に小関さんが来た……



「ちょっと!?何よコレ!?あの馬鹿……此処までするなんて……なんて人なのかしら!本当に人間?レイジウイルスにかかってんじゃないの?絶対頭がおかしいわ!小田さんの言う通りよ!」



 そして小田さんに、関口夫妻もすぐに来た。



「嘘でしょう?あのイカレ女……何してるか理解してるの?此処までやる危険人物だったなんて!」



 小田さんがそう言うと、関口さんが『コレはもう開かないな……チェーンソーで周辺を斬らないと机も食器棚も出せないな!完全アウト……ダメだ!』と言う。



「皆さん!今日は雷雨だから、私たちは今から避難所へ向かいます!」



「だったら私の家に来なさいよ!お爺さんと二人だから平気よ!遠慮しないで!」



「ウチで良いですよ小関さん!旦那も居ないんで一人だと広いし!」



「いやいや!康二さんにずっと世話になって来たんです。俺んところに来て下さい!裏には慣れの家があるし!」



「そうよ!ウチへ是非来て!武器の扱いに慣れたさいちゃんが居ると、本当に助かるもの!!家は毎日少しずつ修理しましょう!!」




 母が言うと、小関さんが、小関さんが言うと、小田さんが、小田さんが言うと関口夫妻がそう言ってくれた……



 しかし田中家の狙いは今や私たち家族だ……一緒に居ると危険しかないのだ……なので私が代表して皆に説明をする。



「いや!私たちは避難所に行きます!康二叔父さんの知り合いも居るし!それにあのイカレた田中さんの狙いは私たち家族だから!居るだけで何するかわからないし!それに午後からは雷雨です!早く移動しないと危険だから!」



 私は危険が迫っていることを説明してからママの計画を言う。



「……(省略)…と言うふうに、今からあの家に仕返ししますから!皆さんは車の鍵を必ず家にしまっておいてください、あの女が車を奪いに来たら、追い返してくださいね!あの女には絶対に家も車も失ってもらうので!!」



 母は説明の間にも前輪のタイヤを、包丁でザク斬りしている。


 異世界のミスリルエッジ社の包丁なのでタイヤなどサクサクと簡単に切れる……



「「「良い案!!ザマァみろね(だ)!!」」」



 4人はそう言ってから家に帰って行く……



 私たちは荷物をまとめて車に詰める。必要で奪われたくないものは全部シェルターの中の詰めて行く。


 ママが愛するパパから貰った食器や私の思い出の品にアルバムなど、あの女が仕返しに何かしない様に大切なものは全部だ。



「いいぞ!もう出られる!!」



 パパがプラモデルの箱を最後にしまって、『ママと私がそんなものまで?』と笑いシェルターのドアを閉める。



「あれはホビフェス限定のものなんだ!さいちゃんが生まれた年にママが買ってくれたんだよ!将来さいちゃんと一緒に作りなって!」


「ああ!言われて思い出したわ!買ったわね!さいちゃん、結婚する前に一緒に作ってあげてね!」



 私は、結婚……って……今こうやって逃げる時にいうか?と思ったが、言わずにおいた……



 車に乗ってガレージを開けて思い出した。


 ハーブのプランターだ……私はそれを取りに行き、小関さんの家まで走る……



「こ……小関さん!お世話になりました!コレ!!私だと思って育ててあげてください!よく育つし、お茶にして毎日楽しんでください!!」



「さいちゃん!何かあったら帰ってくるんだよ?此処の家は二世帯用に作った家だから、アナタ達家族も入れるからね!」



 単なるご近所さんなのに感謝しかない……



「じゃあ!作戦実行するんで!小関さんもこの後は気をつけて!『目に目を!!』です!!」



「ふふふふ!!『歯には歯を!!』応援してるわ!!」



 それからガレージに戻り車に乗って近隣の家に電話で連絡をする……今から田中家を吹っ飛ばすからだ。


 そしてガレージを開けて車を出してから施錠をする。


 玄関周りに隠していた自宅の鍵をパパが回収するして、ママは同じように手伝うふりをして、田中家から見えない方のタイヤを切り裂くと、私たちに合図を出す。



 私たちが車でその場から離れると案の定、田中信子が出て来て……


「ザマァみろ!お前達の飯は、私が責任を持って食ってやるから安心して出て行け!!」


 そう言って私たちの家に入って行く……



 私は車を降りてサプレッサーを付けたFN SCARで田中家のプロパンガスを撃ち抜く……見栄を張ったのだろう充填型の超大型だった事もあり『ズドォォォォン』と凄い音を立てて、家の1/3が吹き飛ぶ……そしてガスにも引火して残りが燃え出した。



 此処が新興住宅街という事もあり、家と家の間に十分距離はあるが外は流石に衝撃がすごい……


 周りの家は大丈夫だろうか?ガラスとか……と思うと、家の周りに衝撃波や爆風避けの障壁が見える……流石は異世界の賜物だ……


 今の建物は全て異世界の技術が応用されている……異世界住建ホームはいい仕事をしている!



 突然家を失った田中さんが、家から出て来て『私の家が!!なんて事してるのよ!!あんまりよ!!今日からどこで暮らすのよ!!』


 と言っているので、私は大声で、



「その家には、アナタが嫌っている康二叔父さんと、まどかさんが毎日16時頃には来ますから!中に入ってたらアナタが食べられますから!残念でした!ご愁傷様です!車も見た方がいいですよ?もう走れないだろうけど!!頑張って歩いて逃げてくださいね!」



 そう言って私は父の運転する車に戻る……



「いい腕だ!ザマァみろだな!」


「本当!いい腕ね!バーン!って!それにしても本当にザマァみろね!」


「じゃあ!パパとママ!行きましょう!!」



 私たちは家を失ったが、3人で笑う……あの家で雨戸の隙間から、叔父さんとまどかさんを見ることはもうできない……


 康二叔父さんとまどかさんの同類になることはできません……御免なさい!!と心の中でおじさんにサヨナラの挨拶をした。


 父は『さぁ!悔やんでも仕方ない!僕達は生きなければ!』そう言って車を走らせた。



 車で家から出て暫く走ってから、別道路と交わる付近で止める……目前に制圧隊の車が来たからだ……


 私たちは家を出た……望んではないが、出ざるを得なかった。


 今日は事件から通算して18日目だ……








登場人物


主人公 石川 彩姫


石川 武(彩姫の父)

石川 ゆかり(彩姫の母親)


小関 和子(自治会 班長)


小田 京子(夫死亡)


関口 良子(妻)

関口 正臣(夫)


田中 信子(危険思想持ち・前科2犯)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る